【恐怖の絵本】発売から一週間で販売禁止となった昭和44年の絵本

2016/08/09
放送作家 石原ヒサトシ

 クモだんなは飛び上がった。

「そんなバカなことができるか! 俺はクモだんなだぞ! バカもんじゃないんだ!」

 するとカエルは、また、クモだんなの心臓をひと噛みした。

 

 そこで、クモだんなは、村を一軒一軒まわっては、男たちに

「こんにちは奥様方。」

女たちには

「こんにちは旦那様方。」

と挨拶した。

 

 クモだんなは、バカにされ、笑われ、あげくの果てに、ののしられ、叩かれた。クモだんなは、ヒイヒイ泣きながら逃げ出した。

 すると、カエルがまた命令した。

「家へ帰って、女房を棒で叩け!」

「なんだって?」

クモだんなは立ち止まった。

「女房は俺を愛している。俺も女房を愛している。それを、叩けだと?」

「嫌だちゅうかね?」

カエルはひと噛みした。そこで、クモだんなは家へ駆け込むと、

ひっくり返ってぐうぐう寝ている女房を叩きのめした。

 この女房は、食べている時以外は、ぐうぐう寝ている女だったが、

棒で殴られたものだから、目を覚ましてわめきだした。

クモだんなに飛びついて、ひっかいたり、噛みついたり、

さあ、その騒ぎが村まで聞こえたから、村長がかけつけた。

「クモだんな、おまえ、気でも狂ったかね!」

 ところがクモだんなはのぼせ上がっていたもので、村長を投げ飛ばし、草原に駆け込んで隠れてしまった。

 

 しかし、カエルはまだ許さなかった。

「もう一度村へ行くだ、そして村に火をつけろ。」

「そんなことできるものかね! 見つかったらぶち殺される!」

 クモだんなは、せいせい言いながら断った。しかし、カエルがちょっとアゴを動かしたので、クモだんなは飛び上がって

「わかったよ!」

とさけんだ。そして村へ引き返すと、火をつけた。

火はあっという間に村中に広がった。屋根は大きな音をたてて焼け落ちた。

人も牛も逃げまどい、村人たちの泣き叫ぶ声は、草原の果てまで響いた。

 

 朝になった。女たちはまだ熱い焼けあとから、壺やお碗を掘り出していた。泣きながら掘り出していた。

カエルはクモだんなにいいつけた。

「さあ、村長のところへ行って、これはみんな私のしたことだといえ。」

クモだんなは、震え上がった。

「かんべんしてくれ、そんなことをしたら……」

ひと噛みで、クモだんなの心臓に血が滲んだ。クモだんなは、またとぼとぼと歩き出し、村長の前に出て行った。

村長さま、火をつけたのは私です。というのも、にくい、カエ……」

言い終わらないうちにカエルは噛み付いた。

クモだんなは倒れ、人々は、かわいそうなクモだんなにとびかかり、棒で叩き、引っ張り回した。

「殺してしまえ!」

「まて。」

村長は手を上げた。

「裁判をするまで、殺してはならん。」 

そこで人々は、クモだんなを放り出した。

それから縄で縛ろうとしたが、クモだんなは、もう息をしていなかった。

 

 しかし、クモだんなは死んではいなかった。ちゃんと生きていた。人々がいなくなると、片目を開けて、そばの木に飛びつき、暗くなるのを待って、草原へ逃げていった。

 その途中、クモだんなは、一匹の年をとったカメに出会った。カメは、クモだんなの古い友だちだった。

「私のいう通りにするんだね、クモだんな。」

 カメは、のろのろと歩きながら、低い声でつぶやいた。

「急いであそこの池まで走っておいき、そして池の淵にしゃがんで言うんだ。

水だ! とびだせ! とね。」

クモだんなは、じろじろとカメを眺めた。

まったく、ヨボヨボでぶざまなカメだった。けれどカメは、いつも本当のことを言う。

 

 クモだんなは駈け出した。そして池の中に、ひと足踏み込んで、叫んだ。

「水だ! とびこめ!」

カエルはそれを聞くと、もう、じっとしていられなかった。

クモだんなの口から飛び出すと、池めがけて真っ逆さまに飛び込んだ!

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放送作家 石原ヒサトシ

放送作家 「クイズ雑学王」、「ボキャブラ天国」等 バラエティを中心にイロイロやってきました。なんか面白いことないかなぁ~と思いながら日々過ごしています。野球、阪神、競馬、ももクロ、チヌ釣り、家電、クイズ・雑学、料理、酒、神社・仏閣、オカルトなことがスキです。

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