
AIの進化によって、私たちの働き方や学び方は大きな転換点を迎えている。そんな時代に注目されているのが「フロー状態(没入状態)」だ。
2026年2月16日、株式会社伊藤園は「第11回 伊藤園ウェルネスフォーラム」を開催し、心理学・生理学の専門家が、フロー体験と緑茶の関係について議論を交わした。テーマは「AI時代到来 フロー状態がもたらすヒトの新たな可能性」。人間が持つ“没入する力”をいかに引き出すか、そのヒントが語られた。
フロー(没入)状態とは何か?心理学から見た「幸福と成長」の仕組み

基調講演では、フロー理論研究の第一人者である法政大学の浅川希洋志教授が登壇した。
フローとは、心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念で、「高い集中力と幸福感を伴いながら、活動に没頭している状態」を指す。浅川氏は、フロー経験には2つの側面があると語る。
ひとつは、活動そのものが楽しく「生きている実感」を得られる現象学的側面。もうひとつは、楽しみながら能力を高め、より複雑な課題へ適応できるようになる人間発達モデルとしての側面だ。

浅川氏は、フロー(没入)に入るための重要な条件として「挑戦レベルと自分の能力のバランス」を挙げた。課題が簡単すぎれば「退屈」を感じ、難しすぎれば「不安」に陥る。この両者が釣り合うことで、没入が生まれやすくなるという。
また、幼少期からフローを経験できる環境づくりの重要性にも触れた。特定の分野で能力があるとされた子どもでも、没頭できる環境に恵まれない場合、その分野から離れてしまう傾向が報告されているという。一方で日常的にフローを経験している学生ほど、自尊感情や学業意欲、人生の満足度が高い傾向も示された。
「楽しい経験やポジティブな感情が、人間の思考や行動の幅を広げ、それが長期的な幸福感(フラリッシュ)へつながっていく」と浅川氏は説明し、AI時代においても“人間が成長するための心理的メカニズム”としてフローの重要性を強調した。
緑茶はフロー(没入)を高めるのか?生理学的アプローチ

続いて登壇した産業医科大学の黒坂知絵准教授は、フロー体験を生理学的に捉える研究について紹介した。
従来、フロー研究は主観的なアンケートが中心だった。しかし、フロー状態は「振り返って初めて気づく」側面があり、作業中にリアルタイムで把握することが難しい。そこで黒坂氏の研究チームは、自律神経系などの生理指標(心電図、呼吸、脳波など)を用い、より客観的な評価を試みた。
実験では、緑茶・ほうじ茶・白湯といった条件下で暗算課題や数値探索作業を行い、そのパフォーマンスや主観指標、体調の変化を測定した。
結果の紹介では、少なくとも暗算課題において、白湯と比較してほうじ茶条件で作業成績が改善する傾向が示され、また疲労感については、白湯条件では作業後に増加がみられたのに対し、緑茶・ほうじ茶条件では統計的には増加が明確でない結果も示された。

黒坂氏は「お茶の摂取によって、リラックスに関わる副交感神経活動が維持・増加し、心身の状態が整えられる可能性がある。それが結果として、作業への取り組みやすさやパフォーマンスに関係しているのではないか」と、生理学的な視点から説明した。
お茶の「香り」がもたらす可能性。受験勉強への活用も可能に。

質疑応答やパネルディスカッションでは、成分以外の要素についても議論が広がった。参加者からは「カフェイン以外の何が効いているのか」「香りは影響するのか」といった質問が寄せられた。
黒坂氏は、カフェインとテアニンの相乗効果に触れつつ、吸収には時間差があるため、状況によっては香りなど“摂取直後から働きかける要因”も検討余地があるとした。

さらに、伊藤園の中央研究所長・加藤一郎氏は、同社が以前から香りを重視した商品づくりを行ってきたことにも言及。日常生活に取り入れやすい「整え方」として、2つの飲み方を提案した。
ひとつは、作業をしながら少しずつ飲む「ちびだら飲み」。フローの波があることを踏まえ、集中の流れを途切れさせにくくする工夫で、もうひとつは、休憩時間に温かいお茶をしっかりと一杯飲むこと。次の作業への“スイッチ”にすることができ、生産性向上へつながるのではないかという考えだ。
また、視聴者から「フローを受験や教育に活かすことは可能か」という質問もあった。浅川氏は「フロー経験を積み重ねながら自分の目標に向かっていくことで、フローを学習にも活かすことができるのではないか」と回答。また黒坂氏は「試験勉強の中でお茶を飲むという習慣があって、それがフローに入りやすい自分のスイッチになるようであれば、試験の前にしっかり飲んで集中力を高めるというのは効果的じゃないか」と語った。
AI時代にこそ求められる「没入する力」

フォーラム後半のパネルディスカッションでは、「AI時代に人間が持つべき能力」としてフロー体験が改めて取り上げられた。
浅川氏は、「これからの時代、自分の能力を客観的に把握し、自ら課題の難易度を調整して没頭できる状態を作る“メタスキル”が重要になる」と指摘。AIが効率化を担うからこそ、人間は好奇心に従い、時間を忘れて何かに打ち込む「プロセスそのもの」に価値を見出すべきだという。
モデレーターを務めた西沢邦浩氏(おいしい健康ラボ所長)は、「AIが発展し、あらゆるものが自動化されるほど、人間が“生きている実感”を得るための能動的なフロー(没入)経験が必要になる」という見解を示した。
お茶は“集中のスイッチ”になるのか

フォーラム全体を通じて浮かび上がったのは、緑茶やほうじ茶が単なる嗜好品ではなく、心理状態を整える可能性を秘めた存在として語られた点だ。
私たちは毎日、膨大な情報にさらされ、集中力が分断されやすい環境に生きている。研究は発展途上ではあるものの、「香り」「温度」「適切な飲用タイミング」といった要素を意識してお茶を飲むことは、心身の状態を整え、没頭しやすい状態づくりの一助になり得る。
AIが多くの作業を代替する時代において、人間が価値を生み出す鍵は、その人自身の内側から湧き出る「没頭する力」にある。今回のフォーラムは、お茶を飲むという身近な習慣が、現代人のウェルビーイングを支えるヒントになり得ることを示唆した。
伊藤園ウェルネスフォーラム公式サイト:https://itoen-forum.com/







