電車に乗っていて、後ろのおばさん2人が「子どもに音楽聴かせて、母親は携帯いじって、イマドキの親子ね」と嫌味っぽく話していた。前の席を見ると、大きなヘッドフォンを耳に着けた5歳くらいの男の子がいて、隣の母親はスマホをいじっていた。
その時は何も思わなかったが、あとで、あの子どもが耳に付けていたのはヘッドフォンじゃなかったんだとわかった。あれは「イヤーマフ」という、周囲の音を極力遮断する道具で、『聴覚過敏(ちょうかくかびん)』という症状を持つ子が使用するものだと知った。
音が凶器になる
「聴覚過敏」はまだまだ認知度が低い。読んで字のごとく、音に過敏になることなのだが、普通の人なら何事もない環境音なのに、不快感や苦痛を伴って耐えられなくなる一種の生理的な病気である。どんな音が苦痛なのかは人それぞれで・・・
救急車のサイレン
カラスの鳴き声
車のエンジン音
赤ちゃんの泣き声
トイレにあるハンドドライヤー
水道が流れる音
人が物を食べている音
人混みのガヤガヤした音
人が会話している声
~etc
色々な音に紛れて聞き取れないような小さな音でも耳が拾ってしまい、それが強調して聞こえて耐えられなくなる。耳をふさぐ、頭が痛くなる、震える、落ち着きがなくなる、嘔吐する、泣き叫ぶ、パニック症状を起こす、といった症状が出てしまう。音が凶器となり耳に刺さってくる感覚にもなるという。
これは特に発達障害の2,3歳の幼児、そして自閉症の子に多く見られるとのこと。ただ、幼少期に発症した場合、年令を重ねるうち徐々に薄れていくケースが多い。
とはいえ、年齢性別は問わずで、大人でも、パソコンのキーを叩く音、エアコンの室外機の音、といったオフィスでの環境音にキリキリする大人が増えているそうだ。単に“不快な音”程度で我慢できているうちは良いが、身体や精神に支障をきたすようになったら「聴覚過敏」なのかもしれない。
子どもを責めないで
聴覚過敏を知らない親もいる。子どもが、この音が嫌だとぐずっても理解できないから「またはじまった」「なにが嫌なのよ」「我慢しなさい」と叱ってしまう。子どもは我慢しているうちに悪化してパニックを起こすようになる。音に対して過剰に嫌がる異変に気付いた時は、耳鼻科や精神科・心療内科などで診てもらってほしい。
とにかく、外出先で障害が出てしまうと、精神的負担が大きく周囲に迷惑を与えかねない。そんな聴覚障害の人が、音を極力遮断するため、冒頭の「イヤーマフ」を装着するそうだ。音がまったく聞こえなくなるわけではなく、うっすら聞こえるくらいに抑えられる。
これは、そもそも射撃や狩猟をする場合に用いられるが、今は図書館などで集中して勉強したい時、飛行機内のツーンという音が不快な時、等にも使用する人がいるとのこと。聴覚過敏の人にも有効として、近年多く用いられるようになったそうだ。他にもノイズキャンセラのヘッドフォンや耳栓を使う人もいるとか。
治療方法についてリサーチしたのだが、自律神経の乱れを正すと良い、という人もいる。結局はストレスを癒すこと、という人もいる。脳と神経のバランスが取れていない、など、研究が進んでいるが、明確な原因はまだわかっていないそうだ。とにかく専門医に診てもらい、その人に合った治療を受けるのが一番だと思う。
「聴覚過敏」に悩む人がいて、耳にしているのはカッコつけたヘッドフォンじゃなく「イヤーマフ」という、いうなれば治療器具である。
誤解を受ける人は少なくないそうで、Twitterでも嘆く声は多い。
自転車で通勤途中、警察官に音楽を聴きながら走行してはダメと呼び止められた。これは騒音をカットする聴覚過敏用のデジタル耳栓だと説明したが腑に落ちないご様子。最後には「紛らわしいから辞めなさい」と注意。これって子供に「あのオバサンに叱られるから静かにしなさい」と言う親に似てる気がする
— orange熊猫 (@ghAoraNGe) 2017年10月14日
こんな病気と世間の冷たい反応がある現状を知って欲しい。ただそんな情報を伝えたいだけ。親も子どもも大変なんだ。