「スケートと家族はセット」スケートボーダー大島勝利〜47歳の挑戦〜

2019/06/21
放送作家 小嶋勝美

梅雨入り宣言がされ、雲が低く垂れ込んだ6月9日。

世界ではストリートリーグで日本人が活躍し、デューツアーでは誰がファイナルに進出するのかとスケート界が騒ぐ中、ある一人のスケートボーダーの挑戦が所沢市にあるSKIP FACTORYにて行われようとしていた。

名前は大島勝利47歳。通称ハチ。

職業、精肉販売。

妻帯者であり、0才児と5才児の子を持つ父親。

そしてスケーター。

そんな大島勝利の挑戦とは、AJSAアマチュアサーキット参戦である。

主に10代前半のスケーターが参戦し、プロスケーターへの登竜門となっているこのコンテスト(AJSA関東アマチュアサーキット)に47歳で再び挑戦するという。

これが彼にとって、どういう意味を持つのか。

どんな想いでコンテストに参戦したのか。

大島勝利さんにコンテスト前とコンテスト後に話を聞いてみた。

“やっぱりドキドキしたい”

【コンテスト直前インタビュー】

——今の心境は?

とにかく周りを意識せずに自分の出来る事と、自分の武器を最大限に活かしてパフォーマンス出来たら!という感じです。

——47歳の今、何故AJSAのアマ戦に挑戦しようと思ったんですか?

年齢を重ねていくと大人はコンテストに参加する事自体が無くなってくるじゃないですか。

若い時はコンテストに出る時の独特の緊張感やドキドキ、当日まで練習を積んで大会に合せて努力をする過程が楽しかったんだけど、なんか“大人は大会に出ないみたいな風潮”があって、自分もコンテストとは疎遠になっていったんだけど、やっぱりこの年齢でもまだドキドキしたいなっていうのと、大会に向けてスケートに取り組む楽しさをもう一度味わいたくて今回の挑戦を決断しました。

“ただ楽しければいい”というスケートもいいけど、“やっぱりドキドキしたい”。

——ハチさんにとって今回の挑戦にはどんな意味がありますか?

何歳になっても挑戦する事の大切さを再確認したかったのと、同世代へも“楽しく挑戦しようよ”っていう投げかけですね。

やっぱり同世代で、今までやってきた仲間達みんなでコンテストに出たいしやりたいなって。

そもそも大人向けのコンテストって無いからね。

大人向けのコンテストって銘打ってもぜんぜん人が集まらないんですよ。

そういう意味でも大人も子供に遠慮しないでガンガンやってこうぜって。

——この挑戦を通して家族に伝えたい事はありますか?

今回の挑戦を一番初めに伝えたのは妻なんですが、仕事や子育てがある中で、一番迷惑をかけてしまうのは妻なんですよ。

実は昨日「正直きつかった」と言われたので、やっぱり家族がいると厳しいんだなっていうのを再確認しました。

なのでここまで応援してくれて、考えを理解してくれた妻に一番感謝したい。

本当は子供も連れてきたかったんだけど、まだ0才と5才なので面倒を見る余裕が無かったんですが、本来は背中を見せたりとか、スケートボードって本当は楽しいんだよっていうのをわかってもらいたい。

お父さんは“楽しんでがんばったよ”っていうのを伝えられたら本望です。

——コンテストの練習で1ヶ月半SKIP FACTORYに通って感じたことは?

改めて若い子とは体力が全然違うなと(笑)

3時間滑ったら次の日ホント滑れないんですよ。集中力や筋力とかも全然回復しなくて。ある日、一人のキッズがものすごい捻挫したんだけど2週間くらいで戻ってきて、そんなの俺がやっちゃったら終りじゃないですか(笑)

下手したら半年とか滑れなくなっちゃうし、そういった意味での体力の低下や怪我が治らないというのは今回痛感しましたね。

反射神経も含めてすべてが衰えている中で、今回のルーティンを考えてきました。

予選は1分間のランを1本だけしか滑れないから、やっぱり練りに練ってじゃないと本当に厳しい。

正直ぶっつけ本番の挑戦になると思う。

大島勝利AJSA関東アマチュアサーキット映像

(YouTube:https://youtu.be/wHjodvIyPr0)

“こんな感情大人になってからはなかった”

【コンテスト終了後インタビュー】

※残念ながら1分間のルーティーン内で2トリックしかメイクならず。

——今日の出来は何点ですか?

100点満点中10点だね。

10点というのは当日まで大けがする事なくたどり着けた部分だけ。

それくらいしんどい挑戦だったね。

あとは全然ダメ。

緊張で足がガクガク震えちゃったし(笑)

若い時にスケートボードでプロになって、有名になりたかったけどなれなかったのが、逆に今回の挑戦に繋がったのかもしれない。

あいつ下手なのにって影でごちゃごちゃ言う人はいると思うけど、全然関係ない。あと、47歳ってMCに紹介して貰った時にオーディエンスがワーってなってくれたのが本当に嬉しかった!!

みんなありがとう!

——終わってみてどうでしたか?

1ヵ月半、練習を積み重ねたはずのルーティンが全くできなかった悔しさが一番。これがコンテストだなと、痛感したね。

オヤジには1ヶ月半という準備期間は短かったし、練習不足だった。

でもここで引き下がるわけにはいかないね(笑)

仕事の事や家庭の事、全ての条件でOKが出ればもう一発挑戦したい。上手くいってたらこれで終わりにしてたかもしれないし、今回まったく上手くいかなかったからこそ芽生えた感情だね。

全く満足出来ていないし、悔しくて落ち込んだからね。

こんな感情大人になってからはなかったね。

(ブラント フェイキー)

——終わってみて、改めてなぜ挑戦しようと思ったのか気付いた点はありますか?

やっぱり20代の頃コンテストに出まくっていたドキドキをこの年で味わえた事が大きい。

一番はそこかな!

皆でワイワイ滑ったり映像撮ったりも楽しかったんだけど、やっぱり何か物足りないなと。なんか1個足りないなって思っていた答えが自分の場合は“ガチの勝負”であるコンテストだった。

(フロントサイドボードスライド)

同じ期間、同じ空間で練習してきた子達も同じ釜の飯を食った仲じゃないけど、応援したい気持ちが強くなったし、上手く結果を残せなかった子達の悔しさを自分も感じる事が出来て、懐かしい気持ちになったのと“やっぱりこれだ!”って。

“悔しいも全部含めてコンテスト”なんだよね。

(惜しくもメイク出来なかったが、柵からのドロップイン)

“スケートと家族はセット”

——今回の挑戦を通して気付いた事は?

挑戦し続ける気持ちというのは自分にとって、スケートボードしかないという事。

仕事はもちろん、ちゃんとやらないといけないんだけど、仕事以外でガチで挑戦させてくれて、生の感情を味わえるのはスケートボードのコンテストだった。

——奥さんとお子さんが2人いて仕事もある中での挑戦でしたが、時間のやりくりなどの秘訣はありますか?

嫁がいなかったら出来なかった。

家の事は1ヶ月半何もやらないで、仕事しかしなかった。

1番負担をかけた嫁には本当にしんどい思いをさせてしまったので、全部まかせてこの挑戦に協力してくれて、1か月半無責任なことを好き勝手させてもらった事に感謝の言葉しかないです。

一家の大黒柱なので無責任な事は出来ないけど、もし次の挑戦があるとしたら、嫁の了解がないと出来ないです。

——今人生楽しいですか?

最高ですね。

歳を取ってくると、皆いろいろゴルフや釣りなど趣味が分かれて行って、価値観も変わっていく中で、俺くらいの歳になるとスケートボードは体力的にきついけど、自分にはこれしかない。

俺もあれこれいろいろやってみたけど、自分にとって夢中になれるのはスケートボードだけだから。

夢中になれるもので挑戦して、終りが見えない事が楽しい。

体力的な事を含めて、どうしようもない事はあるんだけど、気持ちやハートで臨めば何歳になっても挑戦出来るんだなって、改めてスケートボードに教わったね。

——スケートボードはハチさんの人生にとってどんな存在ですか?

家族の次に大事なもの。

でも家族があってのスケートボードで、“家族がいなかったらスケートボードは楽しくなかったかな”って思う。家族がいなくて好きなようにスケートボードが出来てても、スケートボードだけじゃあまり楽しめないかなぁ。

もう一つあって、それは“自分の大好きなスケートボードを子供に伝えたい”。

ガチでプロスケーターにしたいとかじゃなくて、自分が50歳60歳になっても自分の娘と日曜日になったら当たり前のようにスケートボードしに行って、奥さんも一緒に付いてきてくれたら最高かな。

ささやかだけど小さな…いや、大きな夢。

だから家族は絶対必要だし、“スケートと家族はセット”です。

(以前、別のコンテスト出場の際に娘さんと)

——ハチさんの思うスケートボードの魅力を教えてください

スケートボードで表現する事は自由で無限だし、その中で自分の技量や体力にあった表現が出来るのがスケートの魅力だと思うし、それを何歳になっても楽しめる生きがい。

——今回の挑戦を通してスケート仲間に何を伝えたいですか?

普段は同世代とスケートする事が多いけど、やっぱりオヤジだけで固まるんじゃなくて若い子から刺激をもらったり、逆に「この歳でもこれくらい出来る」っていうのを若い子にも伝えていこうぜって。

いろんな楽しみ方がある中で、「コンテストは敷居が高い」みたいなイメージを持たずに、気軽にいくつになっても「ノリでコンテスト出ちゃえ!」みたいな、そんなのが当たり前の世の中やスケートシーンになってほしい。

——次なる野望は?

賛否両論あるかもしれないけど、大人だけのコンテストというのが今まであまり無かったから、マスターズみたく年齢別にして同じ条件、同じ体力で勝負出来るようにコンテストの敷居を低くしたいかな。

今回の自分はそのきっかけとしての挑戦でもある。

こんなに楽しくドキドキ感が味わえるのに、皆やらないのはもったいないなって。

——今日世界で一番輝いていた47歳はハチさんだと思います。全国のオヤジに一言

今も続けてるスケーターやセミリタイヤしている人も、これから始める中年の人も、もっとガンガン表に出てきて一緒にスケートボードしましょう!待っています!

大島勝利さんが所属するオヤジスケートボードチームPsycho Minority Skatesの取材記事

“ガッツポーズの裏側に見える家族の形”

このガッツポーズの裏には大島勝利の知られざるストーリーが隠されている。

1ヶ月半の練習と家族への気遣い、奥さんの苦労、それでも大会に挑戦したいスケーターとしての自分との戦いなどなど、コンテストまでの道のりをやりきった47歳の男の証、それがこのガッツポーズなのだろう。

インタビューを通して見えた大島家の家族の形。

家族を大切にする想いとは一見、相反するようなスケートボードだが、ハチさんは「スケートと家族はセット」と語った。

家族とスケートボードを心から大切にしているからこそリンクするハチさんの想いを受け止め、理解し支えてくれる奥さんの愛情。大島家の目指す理想のスケートボードというのは、ひょっとしたら今後、家族を持つオヤジスケーターたちの理想像になっていくのかもしれない。

スケートボードの大きな原動力となる“家族”を持った大島勝利の新たな挑戦はまだまだ続く。

 

写真・文 小嶋 勝美

スケートボードを趣味としており、ライターとしてスケートボード関連の記事を執筆。

約10年間芸人として活動後、現在は放送作家としても活動中。

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放送作家 小嶋勝美
この記事を書いた人

放送作家 小嶋勝美

お笑い芸人として活動後、放送作家に転身。 スポーツ番組やバラエティ番組などに携わる傍ら、20年以上続けている大好きなスケートボードのライターとしても活動。 コンテスト記事の他、スケボーの情報や面白い発見を伝えていくと共に、スケートボードが持つ素晴らしさを多くの人に広めていきたいと思っています

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