9月28日に45歳の誕生日を迎えた、日本を代表するプロスケーター立本和樹が、その年齢を記念して、自身が店長を務めるSKIP FACTORYと、かつての古巣ムラサキパーク東京のセクションを使った45ラインの映像を公開した。(※ラインとは、1カットの中に2つ以上の技を盛り込む事)
スケートボードの世界では年齢×トリック数を公開し、自身の現在のスキルを見せるというのはよくある話しだが、年齢×ライン数となると話しは別になる。トリック数で言えば最低でも90トリックが必要な上に、1つのカットの中ではミスなく2トリック以上を撮影しなくてはならない為、45ラインとなるとその難易度はとてつもない。
そんな過酷な挑戦を、6日間で撮影し終えた立本プロへ取材を試みた。
【立本和樹プロフィール】
ムラサキスポーツ所属のプロスケートボーダー。
2010年にTUFLEGを立ち上げ、スケートデッキやウィールなどをリリースしている。
コンテスト成績
2003年AJSA年間ランク1位、韓国challengeX優勝、2004年AJSA年間ランク4位
2005年AJSA年間ランク2位、2006年AJSA年間ランク2位、2009年AJSA鵠沼2位
2010年AJSA年間ランク2位、など
現在は、TUFLEG主宰とスケートパーク(SKIP FACTORY)の運営やスケートスクールの講師に加え、イベントやコンテストのジャッジなど、裏方としても忙しく飛び回る中での今回の挑戦。いまだに現役で動き続けられる理由は何なのか?スケートボード歴30周年の立本和樹に一問一答形式で30の質問をぶつけ、今回の挑戦の裏側とスキル維持の秘訣について迫る。
【自分が裏切らない限り、スケートボードはいつでも待ち続けてくれる】
ノーリーバックサイドリップスライド
1--今回のチャンレジをやろうと思ったきっかけは?
“オヤジでも出来る”という事を証明したかったのが一つ。
それと41歳の時は回し技のみで41トリックに挑戦して、42歳の時にはカーブトリックのみで42トリックに挑戦したのですが、43歳と44歳の時は人生の変わり目で忙しかったのもあり、年齢チャレンジ自体をやらなかったんです。そんな中、自分のマイメンのスケーターがバースディトリックをひたすらやっているのをSNSでずっと見ていたら「自分も」って思ったのがスタートかな。
2--1番好きなトリックは?
360キックフリップ。
3--苦手なトリックは?
ハードフリップ。
4--好きなスケーターは?
生涯ピーター・スモリック。
5--普段のスケートで特に意識しているポイントはありますか?
瞬発力。
6--45歳の今でもモチベーションを保つ秘訣は?
自分にはもう家族はいないのですが、家族に匹敵するくらい大切な仲間達の存在。
7--今まで負った大きなケガを教えて下さい
2004年に右足首と中足骨を骨折し、2008年にも右足首と中足骨を骨折。
2015年に左足のリスフラン骨折。
8--何度大きなケガをしてもスケートボードに戻って来れた理由は?
自分が裏切らない限り、スケートボードはいつでも待ち続けてくれるから。
そして、周りの仲間達の声。
トランスファー ノーズストール
9--怪我や仕事など、どうしても長く滑れない時、スケートの感覚を忘れない為に心がけている事はありますか?
逆に完全にスケートボードから離れる。
10--スケート後のアフターケアで大事な事は?
プシュ!
11--スケートパークでイケてないなぁって思うスケーターは?
その場所のルールを守れてないやつ。自分が良ければいいという考えというよりも、そもそも何も考えてないやつ!
12--逆にイケてるなぁって思うスケーターは?
すべてがクールなやつ。
13--自分が設計して作ってきた2つのパークで45ラインを達成した感想は?
自分の中で今までは無かった、新しいラインを入れて映像を完成出来た事が嬉しい。
あと、最終日に夜中までかかったラストラインを、ムラサキパーク東京の仲間が最後まで見守ってくれた事が何より1番嬉しかった!
14--ムラサキパーク東京は自分にとってどんな場所?
第二の故郷がRED-HAT(栃木県にあったスケートパーク、現在は閉鎖)なら、ムラパーは自分の人生において、第二のマイハウス。
15--スキップファクトリーは自分にとってどんな場所?
自分の人生において、第3の新しいステージ。
【滑るときは常にニュートリックをゲットする気持ちでいる】
スイッチフロントサイドボードスライド
16--今回の45ライン撮影でこだわったポイントは?
すべてパークでの撮影なので、アールとストリートのラインを融合させた部分。
17--今回の挑戦で一番苦労した、又は喰らったラインは?
ハマった(苦労した)のは、ムラサキパーク東京でロングレールのライン。喰らったのは…映像を見て頂けるとわかります(笑)
18—自分の全盛期は何歳だと思いますか?
20歳から35歳かな。
19--今の自分のスケートは全盛期の何パーセント?
これまでのケガもあるから、40%出てたら嬉しいかな!
バックサイドグラブ
20—モチベーションを保つ秘訣は?
楽しくマイペースは当たり前!日常でも頭の片隅では、常にスケートを考えているし、欲を言えば人生終わるまでスケートの事を考えていたい。
そして、滑る時は常にニュートリックをゲットする気持ちでいる事。
21--普段スキップファクトリーに遊びに来てくれるスケーターに一言
いつもスキップを利用してくれてありがとう!
お店が忙しい時は難しいけど、わからない事などあったら気軽に聞いてくれれば教えますよ!
【“TRACE of WHEELS”これが途切れる時は自分がいなくなった時】
フロントサイドハーフキャブノーズスライド スイッチショービット
22--今回の挑戦を通してスキップファクトリーのライダーに一言
自分の背中を見て!とは言わない(笑)
だけど“Riderとは”という疑問を持ち、スケート人生で旬な時期を逃さず、目標に打ち込んでほしい。ドメスティックブランドの考え方になっちゃうのかもしれないけど、ただの趣味みたいな動きをしているのなら、スポンサーがどういう思いでサポートをしているのかを考えた方がいいと思う。
23--今回の挑戦を通して自身のブランドTUFLEGライダーに一言
大事な存在。
お前らがいるから自分はいつもチャレンジ出来ると思っている。
感謝。
24--かつてのTUFLEGライダーで、オリンピアンの白井空良に一言
日本開催のオリンピックという大プレッシャーから解放された空良、お疲れ様!
いつものスタイルで次のてっぺんを取ってほしい!
次はお前の番だから。
25--かつてのTUFLEGライダーで、東京五輪金メダリストの堀米雄斗に一言
メダルをかけてもらった時は涙が出るくらいに、雄斗が積み上げてきた努力の重みを感じた。
でも、こんなの一瞬だろ?
もうお前なら次を見てるはず!
次は(スラッシャーの)スケートオブザイヤー獲ってほしい!!!!!!
(※スケートオブザイヤーとはその年、最高の滑りをしたスケーターに送られる称号の事)
26--これからのスケートライフについて
焦りも戻りもしない、我が道を進み続けるのみ。
“TRACE of WHEELS”これが途切れる時は自分がいなくなった時。
スイッチKグラインド
27--50歳50トリックはどこでやりますか?
どこだろうね!
わいわいといつものメンツで「無理っ!」て言いながらやってそうだね!
最高だね!楽しみだよ。
28--映像を見てくれた人たちに一言
自分の事を知ってくれているスケーターへ!「自分はまだスケーターです!」
自分の事を知らないスケーターへ!「45歳のオヤジです」
29--ズバリ!スキルを維持し続けるコツは?
アップの時に基本からスタートする。基本を維持することがスキルにつながる。
30—今回の映像を通して自分の教え子たちに伝えたいメッセージは?
年齢関係なく楽しめるのがスケートボードだと言う事が伝わったら嬉しい。
だけど、スケートはいつまでも攻め続けられるワケじゃないから、今を大事にして1日1日が君たちの“旬”だということも学んでほしい。
【垣間見た“生き様”】
唇が裂けるほどのスラムをした直後にメイクしたスイッチオーリー
チャレンジ最終日。
達成まであと数カットと迫った中、事故が起きた。
スイッチオーリーでバンクを飛び越えるラインの撮影を始めた矢先、テールを弾くのを一瞬躊躇してしまった事により、激しく転倒。踏みつけたデッキが地面から跳ね返り、顔面に直撃してしまったのだ。その結果、唇の一部が裂け、歯は抜けかけてしまう状態に。
簡単な応急処置はしたが、明らかに撮影続行は不可能と思い、すぐさま周辺で救急をやっている病院に電話を入れようと動き出した矢先、立本和樹の表情が変わり「行く」の一言。その言葉のすぐ後、鬼スラムをしたラインの撮影に戻り、見事映像を収めた。
あの「行く」の言葉を聞いた瞬間、彼がこれまでスケートボードを通してくぐり抜けてきた修羅場や、スケートボードに対する覚悟を見たと同時に、全身に鳥肌が立ったのを鮮明に覚えている。
あの一言で「この人はこれまでに何度追い込まれても、どんなにボロボロになっても、自分の力で目の前の壁を乗り越えてきたのだ」と感じた。
まさに30年間挑み続け、何度転んでも立ち上がってきた生き様を垣間見た。
【チャレンジ精神とスケートボード】
筆者自身の話しになってしまうが、今年の夏に40歳を迎え、40トリックの撮影に挑戦した。
40トリック撮るだけなら本来1日で撮るべきなのだが、どうしてもチャレンジしたい新技が多く、撮り終わるまでに15日ほどかかってしまったが、その分得るものはとても多かった。
何より、この歳になってもチャレンジする事への胸の高鳴りと、挑戦する事の楽しさを味わう事が出来た。
この夏流行った「真夏の大冒険」は何歳になっても出来る。
そしてチャレンジの先には必ず得る物がある。
常にチャレンジ精神と向き合うスケートボードには、いつだって多くの素晴らしい体験が待っている。
写真・文 小嶋勝美 Twitter: @katsumikojima1
スケートボードを趣味としており、ライターとしてスケートボード関連の記事を執筆。
約10年間芸人として活動後、現在は放送作家としても活動中。