秋の夜長にいかが?ミュージシャンの終焉を深く考えさせられるドキュメンタリー二選

2019/09/25
桂伸也

1950~60年代に全米を席捲した公民権運動、それを経た70年代以降のサブカルチャー的な動きは今見ても、とても刺激的。例えばその文化に直接影響を受けていない、知らない若い方でも、実は知らない中に影響を受けていたということも多くあるわけであります。特に映画や音楽は、その時代に多くの注目を集めたというアーティストも多く登場しました。

一方で近年、そういった方々の訃報もよく聞かれる時代となってきました。さすがに人間の寿命というものもありますので、お別れの時が来るというのは仕方のないことではありますが、その中でかつて時代を作ってきたアーティストが、その人生をどのように終えるのか、あるいは終えるべきなのか?それは今、注目すべきポイントではないでしょうか。

特にミュージシャンの方は、できるだけ長くプレーしていきたいと考える方も多いことでしょう。アーティストという肩書きがある以上、生きている限り新しいものを作り上げたいという思いもあるはず。そのように、ミュージシャンとしての生涯はどう終えるべきか、あるいはその終焉をファンからどのように見てもらえるべきか。今回はそんなテーマに迫るドキュメンタリー映画二作品を、ご紹介したいと思います。秋の夜長、物思いにふけるひと時のお供にぜひ、いかがでしょうか。

■『アルツハイマーと僕 ~グレン・キャンベル 音楽の奇跡~』

カントリー・ミュージシャンでギタリストの、グレン・キャンベルによる最後のツアーの模様を追ったドキュメンタリー。なかなか日本人にはなじみは薄く、ご存じでない方も多くおられるかもしれません。しかしグレン・キャンベルはジャンルの壁を越え多くの音楽に多大の影響を与えたミュージシャン。数多くの受賞歴を誇り、その伝説的なギタープレーは、ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」やフランク・シナトラの『夜のストレンジャー』などにも収録され、高く評価されています。

そんな彼は2017年に81歳でこの世を去りました。この作品では2011年、医師からアルツハイマー病を宣告され、プレーを断念せざるを得ないと宣告されていたにもかかわらず、その事実を公表したのちに家族とともに出向いた「さよならツアー」の様子が描かれています。

ツアーを経ていくたびに病魔に冒され、時にプレーがままならぬ時もありながら、そのステージに本人、家族やスタッフがどう向き合うか、そしてそんな彼らの姿を、観客はどのように見ていたのか、と様々に印象的な場面が描かれ、アーティストの終焉というものを考えさせてくれる内容となっています。その一方で常に明るさを見せるキャンベルの表情には、深く心を打たれるものもあるでしょう。

また映画では彼に影響を受けた様々な人物のコメントムービーも収録。中にはブルース・スプリングスティーン、ジ・エッジ(U2)、ポール・マッカートニー、シェリル・クロウ、テイラー・スウィフト、チャド・スミス(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)などといった“えっ!?こんな人も?”という意外な人も登場、非常に興味深い作品であります。

■『ナウ・モア・ザン・エヴァー ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ』

日本では特に82年のヒット曲「素直になれなくて」のイメージが強い、アメリカのロックバンド、シカゴ。このヒット曲があったことから、どうしてもバラードがメインのバンドと見られがちなイメージがありますが、当初はブラス・ロックとして登場と、80'sファンからすると“えっ?”と知られざる事実に驚くようなエピソードも語られます。またバンドとしては1967年に結成、活動歴としては2017年に結成50年を迎えるなど、非常に息の長いバンドであります。

一方、ここで語られるメンバーたちのインタビューでは、決して順風満帆ではない現在までの道のりが、赤裸々に語られます。看板ギタリストであったテリー・キャスの突然の死、新たに迎えたプロデューサー、デビッド・フォスターとの確執、バンドの新たなイメージを作り上げたリード・ボーカル、ピーター・セテラの脱退劇など、多くの葛藤に見舞われた50年が、ここには描かれています。

そしてこの作品は、単に一つのバンドの歴史をたどるものではなく、アーティストがアーティストとして生きることの難しさ、そしてその意義などを深く考えさせられるものとなっています。

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桂伸也
この記事を書いた人

桂伸也

フリーライター。元々音楽系からのスタートですが、現在は広く浅くという感じではありますが芸能全般、幅広く執筆を行っています。またエンタメ、芸能に限らずスポーツ、アミューズメント系と…何が得意なのかが不明な感じ。逆に困ったときに声を掛ければ、何らか答えが戻ってくるというか…ある意味“変な奴”(笑)

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