1921年に販売が開始され、以後一世紀近くにわたって愛されてきた科学玩具がありました。その名は「地球ゴマ」。ジャイロ効果を使い、回転軸の向きを保ちながら回り続ける独特の動きが人気を集めたロングセラー商品です。
1960年代には年間20〜30万個以上も売れる大ヒットぶりで、模造品も多数登場しました。が、製造元のタイガー商会が廃業することにより、2015年7月末、「地球ゴマ」は94年の歴史に幕を閉じました。
このあたりのいきさつについては、『日経トレンディ』2015年8月号の連載記事「去りゆく商品の昨日まで明日から」ほか、いくつもの媒体で取り上げられているのでご存知の方も少なくないのではないでしょうか。生産終了にがっかりした方々も多く、高額で取引を行っている業者もいたようです。
ですが、当サイトでは同年12月、「『下町ロケット』もびっくり、存続危機にあった『地球ゴマ』が進化して復活!」として、タイガー商会で地球ゴマ製造に携わっていた職人の鳥居賢司さんが、新会社・タイガージャイロスコープ株式会社を立ち上げ、新たなジャイロ製品を開発中であることをお伝えしました。
あらゆるジャイロスコープを凌駕する「地球ジャイロ」
あれから1年が経った2016年12月。新商品「地球ジャイロ」がついに発表され、予約受付も始まりました! 『マガジンサミット』で取り上げるのが遅れてすいません!
※大人も楽しめるハイグレードなサイエンスホビー
出典http://www.tigergyroscope.co.jp/
しかしながらこの「地球ジャイロ」は決して「地球ゴマ」の復活や復刻ではありません。開発製造はタイガージャイロスコープ株式会社と、関東の精密切削加工会社が協力し合って進めてきたのですが、鳥居さんはプロジェクトを立ち上げるにあたり、「地球ゴマの真似ではなく、それを超えていく、ジャイロスコープ史においてこれまでなかったものに仕上げて欲しい」とスタッフに思いの丈を伝え、この言葉に若手開発者たちが俄然やる気を出してくれたおかげで自信作に仕上がったと、鳥居さんは力強く語ります。
また、リリースによれば「今一度原点に立ち返って、コマではなく、本来の『ジャイロ』と名付けることでイメージ刷新を図り、また子ども向けの安価なオモチャ(トイ)でなく、大人も楽しめるハイグレードなサイエンスホビー(趣味)として位置付けるもの」として開発。
タイガージャイロスコープ株式会社のオフィスには、古今東西のジャイロスコープのコレクションがあるのですが、「地球ゴマ」のみならずこれらを全て視野に入れ、同時に全てを超えることを目標として開発されたのが今回の「地球ジャイロ」というわけです。
つまり、「地球ゴマ」は、新しく「地球ジャイロ」として変貌をとげ、こちらが最新型。いまだに別の名称の商品を本物だと思っている方もいるかもしれませんが、「地球ジャイロ」が正しい商品名となります。
※オフィスにある古今東西のジャイロスコープのコレクション
デザインと精度に徹底してこだわった完成度
「地球ジャイロ」の特徴やこだわりポイントはいくつもありますが、鳥居さんから直接いただいた回答からピックアップさせていただくと、大きくは二つあります。見た目の美しさにこだわったデザインと、最新の設備を使ったミクロン単位の高精度切削加工がそれです。
まずはデザインですが、これについて鳥居さんは「今回とくに訴えたかったのは、工芸品のような美しさであり、カースタイリングのようなカッコよさなんです。地球ジャイロが『不朽の名品』として後世に残るかどうかも、デザインがそれだけ魅力的かどうかにかかっているでしょう」と語ります。今回の発表を受け、SNS等でもすでにデザインのカッコよさに魅了される方々も多数いるようです。
最新設備を持つ関東の町工場が製造にあたることによって実現した精度の高さがいかにすごいかは、公式サイトに掲載されている動画をご覧いただければ一目瞭然。
ケースの上で、床の上で、あるいはペン先やヒモの先で、とんでもなくスマートに安定しながら回転している地球ジャイロの姿は、まるでCG映像であるかのように一切のブレがありません。もちろん加工なんて一切なしの実写映像です。
といってもその高精度、最新設備のおかげはもちろんですが、同時に組み立てもまたそれを左右するということで、そこには職人さんたち自身の手作業による仕上げの工程も欠かせません。そのため価格は少々お高めのようですが、そのクオリティの高さを考えれば、充分に納得できる価格といえるのではないでしょうか。
その証拠に、先日の受付開始以来、予約注文が順調に入っているそうです。品質の安定を最優先にしているので少量生産となっており、今後は生産体制をより整えていくそうです。
「ブレてはいけない」それが一番大切
タイガージャイロスコープ株式会社には、「地球ゴマ」製造販売元のタイガー商会元工場長、巣山重雄さんもしばしば顔を出されるそうです。巣山さんはタイガー商会に1961年に入社し、今では「地球ゴマ」をもっともよく知る最後の職人にあたる方。
その巣山さんに鳥居さんが「地球ジャイロ」の感想を聞いたところ、「美しくて素晴らしい出来映えで感激しました。本当に立派に仕上がりましたね。私もうれしく思っています」とのお墨付きの言葉をいただけたとのこと。「地球ジャイロ」は「地球ゴマ」の復活や復刻ではないと繰り返し書いておりますが、巣山さんの言葉に期待が膨らむのも間違いありません。
そんなわけで待ちに待った次世代ジャイロ「地球ジャイロ」の誕生を祝福、応援するとともに、鳥居さんからいただいた意気込みで、本稿を締めくくらせていただきます。
「この製品で一番大切にしたいのは、ジャイロ効果がもたらす不思議さであり、それを観察したときの素朴な疑問です。それが高じて科学について興味や関心を持ち、考える力を養い、発動させてくれるのが地球ジャイロなのです。そこはブレてはいけないと思っています」