映画、ドラマ、ゲーム、マンガと、メディアを問わずゾンビものが人気だ。前回はそもそも“ゾンビ”とは何かについて書かせていただいた。今や、人食い死者のことをゾンビとするのが定着しているが、そもそもの語源としては呪術で蘇って労働力とさせられた死者のことだった。
ゾンビファン以外のための“ゾンビ”もの
とはいうものの、現在のゾンビブームの“ゾンビ”は人喰い死者のことなので、本稿も概ね人食い死者としてのゾンビという視点に立っている。つまり“人食い”と表現したとおり『ゾンビもの』は結構グロい作品だらけである。
では、グロいのになぜ人気なのか。「グロいのなんて観て何が面白いのか、ゾンビなんてくだらない」とかいう人ほど残酷な動画とか見ちゃうくせに……。といった本音はひとまずおいといて(筆者は演出されたフィクションとしてのショック描写が好きなのであって、ホンモノの残酷映像は未来永劫絶対に見たくありません)。
実は本格的にグロいゾンビものというのは主に80年代のスプラッター映画ブームの頃の作品が大半で、近年はグロさ控えめな作品が多い印象なのだ。
最近のゾンビは走る!恋する!泣く!
グロさが控えめどころか、従来はノロノロ歩いていたゾンビが、『28日後…』('02/感染者であってゾンビではないという意見も多数)や『ドーン・オブ・ザ・デッド』('04/『ゾンビ』のリメイク)あたりを皮切りに、全力ダッシュするタイプも増え始め作品自体もテンポアップしている。
- 『28日後... 』特別編 [DVD]
キリアン・マーフィ (出演), ナオミ・ハリス (出演), ダニー・ボイル (監督)。アメリカSF・ファンタジー・ホラー映画アカデミーと呼ばれる第30回サターン賞(2003年度)の最優秀ホラー映画賞。
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- ドーン・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット プレミアム・エディション [DVD]
サラ・ポーリー (出演), ヴィング・レイムス (出演), ザック・スナイダー (監督)。B級ホラーだった作品を、様々な人間模様を綿密に描きだすことで、オリジナルとは違ったサバイバルアクションとした。“走るゾンビ”が登場した記念すべき作品。
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つまり、ゾンビか否かではなく、一般的な映画として充分面白いといえるケースが増えてきたのだ。
そう書くと、従来のゾンビものはつまらなかったのか、とさらなる疑問が出てくるが、確かに「ゾンビが出てればいいんでしょ?」と投げやりな態度で作られた駄作の比率があまりにも高かったのは事実(今でもそうかもしれないが)。しかし駄作しかなかったわけではもちろんなく、本稿においてタイトルを挙げている作品はいずれもゾンビ好き以外にもおすすめできる名作だ。
また、従来はゾンビから逃げる生者の物語が主流だったのに対し、近年は『コリン LOVE OF THE DEAD』('08)や『ウォーム・ボディーズ』('13)のようにゾンビになってしまった側を主人公にした作品が登場している。
- 『コリン LOVE OF THE DEAD』 スペシャル・エディション[DVD]
アラステア・カートン (出演), デイジー・エイトケンズ (出演), マーク・プライス (監督)。低予算だったが内容の評価が高い一本。ゾンビ側の心情を描いた作品として秀逸
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- 『ウォーム・ボディーズ 』[DVD]
『ウォーム・ボディーズ 』[DVD]。ニコラス・ホルト(出演), テリーサ・パーマー (出演), ジョナサン・レヴィン(監督)。人間とゾンビの恋を描いた作品。恋愛を通して、ゾンビ青年の人間のココロを取り戻してゆくさまは泣ける。
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そう、今現在のゾンビ人気は、クオリティ的にちゃんとした作品が、ちゃんとゾンビファン以外の方たちにも届くようになってきたおかげ、ということだ。
世界滅亡と自身のゾンビ化欲求?
もっとも、ゾンビものはゾンビが発生することで世界が滅びつつあるのが王道パターンであり、これすなわち『マッドマックス2』('81)に代表される、滅亡後の世界をサバイバルする絶望的近未来SFと、かなり類似する世界観を観客が求めているとも思われる。
- 『マッドマックス2』 [Blu-ray]
メル・ギブソン (出演), ブルース・スペンス (出演), ジョージ・ミラー (監督)。大国同士による戦争後の荒廃した世界が舞台。マンガ“北斗の拳”も影響を受けたとされる。
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つまり今現在は「世界なんて滅茶苦茶になっちゃえばいいのに!」みたいな厭世観が一般に蔓延している時代なのかもしれない。
逃げる生者ではなく、もう逃げる必要のない死者であり、それでいて自分以外にもうじゃうじゃ仲間が存在する立場。
あ、もしかしてこれって、ネット炎上の際に対象を徹底的に叩き潰そうとする匿名の勢力のようなところへの同化願望かしらん、という発想が浮かんだりもする。あとからあとから湧き出てくる中傷とかまさにネットゾンビ!。
あくまでゾンビ好きとして、映画・ドラマの制作者の皆様、今後も面白い新しいゾンビものの登場をお待ちしております。