第2の引っ越しシーズンといわれる9月10月を迎え、withコロナ時代に部屋選びの基準や価値観はどのように変化しているのだろうか。不動産・住宅に関する総合情報サイト『SUUMO』の池本洋一編集長は、4月の緊急事態宣言以降、住まい探しの現場にもコロナ禍の影響を感じているという。
ひとつは間取りの変化。リモートワークによる職住融合で、部屋数やマンションの共有スペースの有無などを気にする人が増えた。もうひとつはコロナ禍で冬のボーナスの落ち込みが予想されるなか、距離よりも広さや住みやすさを求め、家賃のリーズナブルな郊外を検討する人が増えたそうだ。
池本「以前は、郊外=ベットタウンというようなイメージがあり、寝に帰るだけの街という感じでしたが、コロナ禍で住む街に滞在する時間が長くなり、その分、地元を楽しむ傾向が強くなっています。今後は住んでいて“たいくつな街”は人気が下降するかも知れません」
その目安として参考にしたいのが2020年3月に発表された『SUUMO住民に愛されている街ランキング』(以下、愛されている街ランキング)だ。実際に暮らしている住民からの評価が高い街を集計したもので、その結果をもとに7月に<物価が安いと感じる街ランキング>が、9月には<ファミリー向け・家賃相場10万円以下で住める街ランキング>などがそれぞれリリースされており、今後、人気のエリアや街を調べるひとつの指標になりそうだ。
そこで今回は、これら『愛されている街ランキング』をもとに、今、注目の駅や地域はどこなのか? 今後、家賃が急騰するかも知れない穴場エリアとその理由などを池本編集長に伺った。
狙い目は「郊外中核駅」から2キロ圏内の隣町!
池本「キーワードは「食」・「遊」・「学」。ショッピングセンター以外にランチや週末を楽しめる飲食店、ゲーム・映画館・公園などの遊びスポット、美術館・図書館など学びに関する施設、その3つが揃っているリーズナブルで交通の便が良い郊外中核駅の隣町が人気です。なかでも注目なのが、<ファミリー向け・家賃相場10万円以下で住める街ランキング>で2位にランクインした「加茂宮駅」周辺エリアです」
埼玉新都市交通伊奈線「加茂宮駅」は大宮駅から2駅目に位置する。県内最大級のショッピングモール「ステラタウン」と市営の大型文化施設「さいたま市 プラザノース」や「さいたま北部医療センター」、その他「市民の森 見沼グリーンセンター」といった緑豊かなスポットも近い。
池本「伊奈線は上越新幹線の高架沿いを走るニューシャトルで利便性に優れています。加茂宮駅は、郊外中核駅である大宮駅の近隣駅でありながら必要な施設すべてが揃っている。このエリアのみでワンストップで、なおかつ大宮駅に比べて家賃が安く、まさに穴場の駅といえます。同じような例では「立川駅」から2駅目の「高松駅」もありますね」
多摩都市モノレール線「高松駅」の周辺には、高島屋、IKEA、ららぽーとをはじめとした商業施設の他、昭和記念公園などがある。そのなかでも大注目なのが今年6月に営業を本格的に開始した新街区「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」だという。多機能ホールやホテル、美術館、商業施設、飲食店、オフィス、保育園などが入る最先端の複合施設でありホテルのルーフトップにはインフィニティプールも備える。
池本「加茂宮駅や高松駅は、巨大な工場跡地や飛行場跡地の再開発エリアの最寄り駅で、今、注目なのは、こうした工場移転などの理由で空き地ができた郊外中核駅近くの町です。なかでも、中核駅までの距離が約2キロ圏内、自転車で通勤・通学できるくらいの場所に位置する駅や町は発展しやすい傾向にあります」
今後、家賃はどのくらい上がる?
さらに、ここ最近で注目されているエリアは駅周辺が再開発され魅力度が増した田園都市線「南町田グランベリーパーク駅」や小田急線「海老名駅」だという。「南町田グランベリーパーク駅」は、グランベリーモールをニューアルしたばかりで評判が良く、「海老名駅」は、複合商業施設「ViNA WALK(ビナウォーク)」を中心とした東口側だけでなく、近年、西口側の「ららぽーと」を中心とした新街区・扇町が発展しつつある。また、横浜再開発の中心のみなとみらい地区と横浜駅に近接する、みなとみらい線「馬車道駅」なども挙げられるそうだ。
しかし、このようなエリアが今後、更なる大きな発展を遂げるには条件があるという。
池本「この先、リモートワークが定着するといっても、共働き世帯が増えてきたことを考えると、山手線のターミナル駅まで30分で出られるか否かが人気の目安のひとつになります。バブル期前後は60分圏内のエリアまでが通勤範囲の目安でしたが、この先、この辺りの駅や町がどう発展していくのか注目していきたいです」
参考までに、現在、海老名駅は小田急小田原線「新宿駅」まで約44分~54分、南町田グランベリーパーク駅は東急田園都市線「渋谷駅」まで約50分だ。いずれも山手線のターミナル駅まで一本で通えるアクセスの良さだが、乗車時間は40分を超える。
加茂宮駅は中核駅である大宮駅からJR上野東京ライン「上野駅」まで34分。加茂宮駅からの乗車時間や乗り換えを考えると40分を超す計算になる。高松駅は立川駅で乗り換えて中央線「新宿駅」までトータル約55分だ。
みなとみらい線が東急東横線に乗り入れている馬車道駅は渋谷駅まで約38分だが、馬車道駅は横浜駅で乗り換えJR上野東京ライン「品川駅」へと向かう方法もあり、こちらは約32分となる。
気になるのは家賃相場だが、注目の人気エリアとなれば、いつまでも家賃10万円以下では住めないかも知れない。池本編集長によると、過去10年間の都内のファミリータイプの平均賃料のうち、23区もっとも上昇した22.1万(2019年)とは4万円以上の差がある。一方、都下では12.5万(2017年)と13.2万(2011年)で、その差は7千円と大きな違いはない。
池本「以前は、都心のみ値上がりが顕著で、都下は、ほぼ横ばい状態でした。しかし、コロナ禍以降は都下や郊外のなかでも人気エリアとそうでもないエリアの賃料の格差がはっきりと出てしまうかも知れませんね」
もうひとつの穴場「下町中核駅」
郊外中核駅に隣接した再開発エリアとは別に人気上昇中なのが、池本編集長が“もうひとつの穴場”と話す「赤羽駅」、「北千住駅」、「蒲田駅」などの下町中核エリアだ。工場跡地などが大規模に開発された郊外中核エリアとは真逆の魅力があるという。
池本「以前は、子育てむきでないというイメージからかファミリー層に選ばれにくい一面もあったようですが、最近は若者中心に愛される街へと変化を遂げています。そのきっかけはメデイア、なかでもマツコ・デラックスさんの影響が大きいと個人的には思います。気軽に住めて敷居が高くない街、安くて旨い下町グルメも多い、そんな等身大の街にスポットをあてた番組が増え、興味を持つ人が増えたようです」
割安な賃料に比例しない都心へのアクセスの良さ、歴史ある商店と新しい商業施設とが混在した便利さ、独特の雰囲気を兼ね備えた街といったところが人気の理由らしい。
池本「風俗街が廃れて、そこが個性的でお洒落な街に少しずつ変貌しています。ある日、どーんと、変わってしまうのでなく下町の良さを残しつつ経年優化といったような感じです。そのような街は家賃がリーズナブルなため、若い人たちがチャレンジしやすく自分の手で街をカスタムできる楽しさもあります」
どの街にも同じような商業施設が入り、画一的で面白味がなくなってしまった昨今、街の個性と歴史を感じられる“退屈しない地元”というのも魅力のひとつなのだ。
ちなみに下町と言われているエリアのなかには、荒川区をはじめ物価が安い街も多い。JR埼京線「赤羽駅」の隣に位置する「十条駅」とJR京浜東北線「東十条駅」は、<物価が安いと感じる街ランキング>の1位と3位にランクインしている。「十条駅」は「池袋駅」までJR埼京線で6分、「新宿駅」まで12分とアクセスも良い。
池本「今後は「住みたい街」ランキングとは別の視点で、限られたローカルな人達にしか知られていなかった街を、色々な角度で掘り下げて紹介していくのも面白いと思っています。今回、<ファミリー向け・家賃相場10万円以下で住める街ランキング>や<物価が安いと感じる街ランキング>などを発表しましたが、例えば「運動が得意な子供を育てやすい街」といった、今までにない視点で街を眺めてみると意外と知られていない“穴場感”を可視化できるのではないでしょうか」
来春に引っ越しを考えている皆さん、はたまた、新しいお店をオープンしようと考えている店主の方、参考にしてみてはいかがだろうか。