文明が発達した現代でもなお「魔除け」を行う風習があります。店や家の入り口に盛り塩がされているのを見たことがある人はいると思いますが、あれも、一種の魔除けだと言われています。そして魔除けになると考えられていた植物もあるそうです。
人はなぜ魔を避けるのか
人はなぜか魔を避けようとします。たとえば節分の時に豆を撒くのも、鬼は外、と魔を追い出していますし、厄年の時にお祓いをするのも、魔を避けようとしているからなのでしょう。お正月に神社でいただく破魔矢も魔を破って浄化するものだと考えられています。
では魔とはなんなのでしょうか。おそらくそれは、病気や事故などの良くない事象を指すのだと思います。誰だってできれば良くない出来事は避けたいものです。だからこそ、魔除けをして、できる限りそれらから身を守ろうとしているのでしょう。
魔除けになると考えられている植物もあります。節分でイワシの頭と共に飾る柊の葉にはトゲがあるため、これが魔除けになると考えられていたという説があります。また、端午の節句には菖蒲の葉をお風呂に入れますが、香りが強いため、これで魔を祓うことができると考えられていたようです。
縄文時代の魔除け
『aromatopia』2021年10月号の特集記事は、アロマ雑誌にしては少し異例にも思える「植物と魔除け」です。しかし目次を見ると、魔除けに使われる香りなど、かなり専門性がある興味深い内容となっています。
なかでも東京大学名誉教授の辻誠一郎さんが書かれた「魔除けの植物文化誌」は、縄文時代からの魔除けに使われた植物の歴史が書かれていて、とても勉強になります。縄文時代にはウルシが器に利用されていましたが、ウルシにはパワーがあると考えられていて、魔除けとしても使われていたのだとか。
私たちが何気なく行っている年中行事には、魔を避け、皆の健康と安全を願う気持ちが込められているということ、そしてその行事には「その行事にお決まりの植物」が寄り添っていることも多いということに気づかされます。なぜこの行事にはこの植物なのだろう、と調べてみると、尖った葉が魔を追い出すと考えたなどという理由があります。昔の人が植物の効能を真剣に考えてきた様子がそこに見え隠れしているのです。