BL(ボーイズラブ)といえば男と男の恋愛を描く一種のファンタジー作品である。
恋愛を取り扱う以上、二人の仲に割り込んでくるキャラクターという役回りは頻繁に必要とされるわけで、それをこの記事では“間男(まおとこ)”と呼びたい。
そして、同時に今回スポットを当てたいのもその“間男”なわけだ。
BL世界の間男は多様である。
突然ヤクザが現れ、愛し合う二人の間を割くこともあるし、受けや攻めの元彼がヨリを戻そうと画策してくることもあるし、はたまた略奪愛の踏み台にされる間男もいる。
この記事では、そんな間男たちを3作品からそれぞれ1人ずつ紹介したい。
あなた好みの【噛ませ犬】が見つかれば幸いである。
※【噛ませ犬】とは場面を盛り上げるための、やられ役のこと。
人の恋路を邪魔する間男達は、強烈な個性をのこしつつ、最後は悶絶するほどの“やられっぷり”を堪能させてくれるほど優秀といえる。
1、すぐマンションを買い与えてくる『受けの元彼』
私が一番好きな間男のタイプは、“社会的地位が高いけれど異常性癖を持つ元彼”である。
井戸ぎほう『夜はともだち』、はらだ『やたもも』などでも観測できるこの手の男は、SMなどの過激な趣味を持つ冷酷な金持ちである場合が多く、振られ方がこっぴどいほど溜飲が下がる。
木村ヒデサト『マリアボーイ』の“西原さん”もそんな間男の一人である。
- 『マリアボーイ』木村 ヒデサト (マーブルコミックス) コミック東京漫画社
出典 amazon
同作の主人公・ヨシキは28歳の美容師であるが、かつて高級男娼として活躍していた過去を持つ。
西原さんはこの水商売時代のパトロンで、ヨシキの20歳の誕生日にはマンションをプレゼントするほど彼に入れ込んだ人物でもあった。
20歳の誕生日にマンション……そう、西原さんは“本気”だったのだ。本気だったから気持ち悪いんだけど。
しかしヨシキは過激なプレイを好む西原さんに疲れ、マンションを売って彼から逃げ回る生活を始める。
すかさず追う西原さん(良い子は真似してはいけません)。
彼は盗聴を行い、最終的に監禁事件まで起こすが、その一方で会社にはちゃんと行くし仕事の電話には丁寧な応対をする。
典型的なDV男なのだ!
この西原さん、ラストには新しい恋人ができたヨシキにバッサリと振られることとなる。
BLにおいて間男は、受けと攻めが決定的にくっつくまでのスパイスなのだ。
その点で西原さんは極めて優秀なキャラクターであると言えよう。
2、仕事の後輩が突然……
後輩。悩ましい単語である。先輩後輩でしかないのか、そこから一線を踏み越えるのか、踏み越えるとしてそれはどちらからなのか……考えるべきことがあまりにも多く、そしてその分、魅力的だ。
一穂ミチ『イエスかノーか半分か』の主人公は、二重人格レベルに猫をかぶって生きている腹黒アナウンサーの“計”。人前では優等生だが、心の中ではいつも毒づいている。
- 『イエスかノーか半分か』一穂 ミチ (著), 竹美家 らら (イラスト) ディアプラス文庫
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紆余曲折を経て全てを受け入れてくれる恋人・潮(計の担当するニュース番組のオープニングを制作するアニメーター)得るが、そこに番外編で絡んでくるのが後輩アナウンサーの竜起である。
王子めいた優等生キャラを演じて大人気を博する計に対し、竜起は持ち前の愛嬌と血のにじむような努力でトントン拍子に出世していく。
“ありのままの自分”を出して成功している竜起にもやもやした気持ちを抱く計であったが、キャラ作りしていたことが竜起にばれ、そのまま告白までされてしまう……。
一見軽薄そうに見えて非常に細かく相手を観察している竜起に、計はたじろぎ、揺さぶられる。
自分は完璧だと口に出す人間ほど、大抵どこかに迷いがあるのだ。完璧は作り上げられるものだし、作ったものに対する評価が誰の目にどう映るかは、本人には操れない領域だから。
そこをぐさりと突いてきたのが“会社の後輩”……。最後に竜起は潮に一喝されて追い出されるけれど、“ココロの弱み”を介したコミュニケーションの、なんと芳しいこと……。
3、ヤクザの「間男」の「間男」
最後に、“主人公が間男”という変わり種ヤクザものBLを紹介しておこう。のばらあいこ『寄越す犬、めくる夜』だ。
- 『寄越す犬、めくる夜-1-Feel』のばらあいこ コミックス-オンブルー 祥伝社
出典 amazon
こちらの作品の売りは何といってもストーリーの密度である。
地下カジノを舞台に、主人公のディーラー・新谷が、イカサマで金を稼いで借金を負ったチンピラディーラー菊池と、カジノの管轄を任されている須藤という、会長の“オンナ”の二人の間で板挟みになる……というドロドロの物語は、本当に“逃げ場がない”。
新谷は菊池がした横領に巻き込まれ、二人して須藤から制裁を受ける。
ビデオの前で菊池を犯すように指示された新谷は、それをきっかけに菊池と関係をもつようになる。
さらに新谷に興味をもった須藤からも関係をせまられ、やがてプレーにのめりこんでゆく。
しかし、須藤は、ヤクザでカジノ店の会長の“愛人”。須藤と新谷が行為に及んでいる最中、会長が入ってきて新谷の口へ銃口を突っ込んで揺するシーンがたまらなく、拍手したくなるほど素晴らしい。
「俺は足が悪いから、こうやって優しく動いてやってくれよ……」と言いながら拳銃を喉の粘膜に直接突きつける組長。ヤクザじゃないとできない恫喝だ〜!
須藤は、会長からは“亜矢子”と女性の名前で呼ばれており、彼もまた女の代替品であることが示唆されている。
間男と呼んで差し支えない身分のヤクザの愛人の【間男】になってしまった新谷。
間男という負の連鎖が連なったこの地獄から新谷が抜け出せるのか。同作はまだ1巻までしか出ていないので、今後の展開が心から楽しみである。
間男(まおとこ)を少し意識しながら読むのも、また少し違った楽しみ方かもしれない。