筆者は、原稿を書くための資料としてさまざまなアンケート調査を参考にします。時に、回答や結果を歪ませかねないバイアスのかかった質問を目にすることもあり、まるで誘導尋問のようで、アンケート結果として採用しづらく感じることもあります。
先頃、ブランド論の第一人者である片平秀貴氏が代表をつとめるビジネスフォーラム「丸の内ブランドフォーラム」(以下MBF)が、ブランド力の測定を目的とした「ブランド生態調査 Brand Seitai 2019」を発表しました。
写真)片平秀貴氏
この調査は、日本マーケティング協会(JMA)の協力のもと東京大学・大阪大学と共同で、首都圏・関西圏の18歳以上の男女7,410人を対象に、提示した複数の領域で「好きなブランド」と「好きな理由」を自己記入してもらうものです。
あらかじめブランドを提示して尋ねるのではなく、好きなブランドとその理由をオープンクエスチョンで聞く純粋想起法に基づく調査であるため、生活者の生の声を反映しやすい利点があります。
日本人にとって最も影響力のあるブランドは?
片平氏は、「動植物が土壌や風土に合った環境で生育していくように、ブランドも人の環境や生活に密着しながら、生活者それぞれの脳内(土壌)に育ってゆくのではないか」という考えを「ブランド生態」という言葉で表現し、生活者の記憶に刻まれているブランドとその影響力を探っています。
調査では7つの領域について質問。(「住まい」「クルマ・交通」「街」「生活雑貨・日用品」の4つの固定領域と「ファッション」「家電・通信」「美容・健康」「情報メディア」「レジャー・エンタメ」「食品」「ショッピング先」の7領域から3つを選択)
総合スコアトップは、1位 デイズニー 2位イオン 3位ユニクロ 4位パナソニック 5位アマゾン という結果になり「信頼」「夢」「シンプル」など、明確なイメージが消費者の頭の中に想起されるブランドや、生活者とより多くの接点をもち複数のカテゴリで想起されているブランドが上位にラインクインする傾向がみられました。また、地域性の強いブランドを除き、首都圏と関西の差はそれほど大きくないことも分かったそうです。
片平氏は今回の調査における結果から「オンライン、オフライン関係なく、生活者にブランド独自の体験の場を提供できていること。その商品やサービスについて記憶に残るような劇的感動があること」などがブランド力の差に影響し、それら複数の体験による記憶の積み重ねがブランド力を上げると説明しています。
ブランド同士の意外な相関関係も明らかに
さらにMBFでは、ひとりの生活者が好むブランドは領域を超えて影響をうけあう関係を示唆しています。
例えば、大手コーヒーチェーン「スターバックス」と「ドトール」の場合、「スターバックス」のファンは若い女性・20~30代が多く、キーワードは「おしゃれ」「ステータス」「新作」「期間限定」「カスタマイズ」など。一方、「ドトール」のファンは男性・40代以上・会社員が多く、世帯年収1000万円以上の人が好む傾向があり、キーワードとしては「落ち着く」「手頃」「居心地が良い」などが挙がっています。
この「スターバックス」のファンの中には「ライザップ」が好きな人の割合が多く、トレンドや話題性があるもの・イノベーティブなものが好き。また「ドトール」のファンは、「ヨドバシカメラ」のファンの割合が多く、「品揃え」「配送の早さ」など、リアリストで合理主義、流行より安心や定番を選ぶ人に支持されていることが推察されます。
片平氏は、このような領域を超えて影響しあうブランド同士の相関関係は、今後、似たランキングの競合他社とのキーワード分析や、企業とコラボレーションや提携先の選択などといった際に活用できるのではないかとしており、調査結果の発表を毎年行う予定だそうです。
「ブランド生態調査 Brand Seitai 2019」および、「丸の内ブランドフォーラム」の詳細は https://mbforum.jp/ まで。