ペットビジネスが伸びる理由。なかでも異業種からの新規参入が成功すると言われる事情とは?

2023/04/18
マガジンサミット編集部

日本の約 1,117万世帯がペットと暮らしており、うち犬一匹にかける金額は年間約35万円、猫は約17万円だそうです※。今やペットビジネス市場は1.7兆円といわれており、国内だけで見ても毎年2%の成長を続けています。

人口減少や高齢化もあいまって、ペットが生涯のパートナーとしていかに大きなウエイトを占めるようになったのかが分かる数字であり、このような時代背景を追い風に、異業種企業やベンチャー企業がペット産業に参入し、今までになかった新たな製品やサービス、動物医療の姿が模索されています。※アニコム損保調査2021年。

今後どのようなペットビジネスが求められるのか? 東京ビッグサイトで開催された日本最大級のペットイベント「インターペット2023」にて行われたセミナー、「株式会社QALstartups」の 代表取締役社長の高松充氏による『異業種大企業はなぜペット業界に参入するのか?トレンドと具体事例』の講演内容を中心に、ペットビジネスの今とこれからをお届けします。

第12回「インターペット2023」にて。ペットビジネス従事者や専門家が集う国内最大のペットビジネス産業見本市。2023年の出展者数は622 社(共同出展者を含む)。3月30日~4日間の来場者数はのべ62,234名。
写真右)高松充氏。写真左)は進行を務めた「JP PET NEWS」の久野知編集長。

ペットの暮らしの中心は「医食住」へ

飼い主はペットの何にお金をかけているのでしょうか。ペットビジネスに関連プレスリリースや独自の取材記事を年間300以上配信している『JP PET NEWS』の久野知編集長によると、支出全体では医療費への支出が約4,500億円ともっとも高く、ペットフードについで高い状態です。ペットとの暮らしの中心は人間の生活でいうところの「衣食住」から「医食住」へと変化してきているといいます。

「医」には、治療・薬の他に、予防・未病用のサプリなどが含まれ、「食」にはペットフードに加え、おやつなど。そして「住」にはトイレや美容、しつけ、ペットホテル、シッターサービスなどが含まれます。医食住以外にも、生体販売や譲渡などの「生」、情報や保険などの「情」という事業領域があり、これら5つの事業領域毎の市場規模は、パピー・アダルト・シニアというペットの成長時期によって変動します。

昨今注目すべき動きとして挙げられるのは、「食」と「住」が「医」と連携し、健康習慣や予防といったヘルスケアに裾野を拡げつつあることです。この背景には、動物医療環境の変化があります。

現在、日本にある動物病院は12,616件。うち80%以上が獣医師1~2名の小規模経営です。このような小規模動物病院は高齢によるセミリタイアが増えてきており新規開業件数としても減少傾向にあります。かわりに台頭してきているのが外資系を含めた中規模以上の動物病院であり、高度診療とホームドクターの二極化やドミナント型地域動物病院もグループ化する傾向がみられるそうです。

このように、中・大規模動物病院が増えることで、「医」から発信される「食」へのヘルスケア製品や、より安全と健康を意識した「住」に関係するサービスの開発、新型の保険サービスなどが登場しています。また電子カルテや予約の運用支援サービス、開業コンサルタント、獣医師や愛玩動物看護師の採用支援、その他の飼い主と動物病院を結ぶIOT支援といった新規事業が台頭しつつあるのです。

ペットと暮らしQOLを高めたいシニア層に応えるサービスに注目

博報堂グループにて、マーケティング業務とマネジメント業務に携わった後、スタートアップスタジオの「株式会社quantum」を創業し、さまざまな分野の新規事業開発や共同創業を経験した高松氏は、「ペットビジネスは大企業が新規参入しやすい市場」と明言します。

とりわけ、ペット(犬と猫)数が約1,589万匹に対し15歳未満の子どもの数が1,465万人※と、子どもの数よりペット数が上回っている日本の現状をふまえ、異業種からペットビジネスに参入する際の注目ポイントとして「シニア」を挙げています。※一般社団法人ペットフード協会調べ2022年/総務省統計局2022年4月1日時点

ペットと暮しているシニア世帯率は、犬では50代(⒒9%)、60代(⒒6%)、猫では50代(10.7%)、60代(10.2%)と30・40代に比べて相対的に高く、さらに世帯数で見ると、犬の場合は50・60代だけで約220万世帯、猫も約200万世帯という規模になります。また同時に「犬と暮らしたい世帯率・数」は50代(18.5%)、60代(16.5%)、70代(13.5%)であり、ペットと暮らしたいのに暮らせていない世帯が150万世帯にも及んでいることがわかります。

ペットと暮らしているシニアのニーズにこたえる、そしてペットと暮らしたいのに暮らせない原因を解決するソリューソンとなる新たな製品・サービスが注目されているのです。

出典)厚労省HP 統計情報・白書より。
出典)一般社団法人ペットフード協会/2022年全国犬猫飼育実態調査結果より。

QAL startupsが、博報堂シニアビジネスフォース、株式会社オースタンスと共同で2022年の敬老の日に実施した「シニアのペットとの暮らしの質に関するアンケートおよびグループインタビュー」によると、ペットと暮らしているシニアは暮らしていないシニアにくらべて全体で7ptほど、60代以上で5pt程度、幸福度が高いそうです。

特に子育てが終わり仕事をリタイアしたシニア層においては「ペットを通して家族や地域との交流機会が増える」、「暮らしにリズムや責任が生まれる」、「コトバを越えた心の繋がりや安らぎが得られる」など生活に張りや潤いなどが生まれるようです。

しかし一方で「ペットの健康を正しく理解し管理できない」、「自分とペットの老々介護が心配」、「しつけに自信がない」、「ペット優先で好きなことができない」、「医療費や保険が負担」、「ペットロスに耐えられない」など不安要素も挙がっています。

健康管理については、ペットの健康寿命を伸ばすために大切なことは分かっているが、家庭ではしっかりとしたケアが難しい「ペットのオーラルケア」へのニーズが高い他、ペットも自分も安心して暮らせる「老年期ケア」への関心、常にペットの体調を見守るために「“見える化”させたい」といったヘルステックなどへの興味も高く、一緒に年齢を重ねていくうえで、自身と同じようにペットの健康に気を配りたいシニアの心情が垣間見られます。また、保護犬を引き取る際にDNAを調べ、将来の病気や治療に備えるといった新たなサービスも注目されているようです。

出典)ペットに関するグループインタビューおよびペットに関するアンケートより/博報堂シニアビジネスフォース・株式会社オースタンス・QAL startups/ 2022年8月。

ちなみに、この調査によるとペットと暮らすシニアがペットに費やす金額は月に約4.3万円。犬と暮らしているシニアに限定すると月に約5万円、年間で約60万円にもなるそうです。この金額は先述の全世帯平均の1.7倍、年間支出額では25万円増であり、男女の比較では女性の支出の方が1割ほど多いそうです。

出典)ペットに関するグループインタビューおよびペットに関するアンケートより/博報堂シニアビジネスフォース・株式会社オースタンス・QAL startups/ 2022年8月。

シニア女性の関心が高いのが「動物病院の信頼性や価格、専門性などの口コミ」、そして「ペットと一緒に暮らせるケアハウス」、「自分の死後のペットの預け先・ペット信託」など。ペットも自分も安心して共に暮らせる環境や学術的治験に基づいたヘルスケア、見守るためのバイタルデータ、健康増進型の保険サービスなどの分野にビジネスチャンスがあるようです。

出典)ペットに関するグループインタビューおよびペットに関するアンケートより/博報堂シニアビジネスフォース・株式会社オースタンス・QAL startups/ 2022年8月。

時代はPet Humanizationへ

ペット先進国のアメリカでは、人向けには当たり前にあったものでペット向けにはなかったサービス、すなわちPet Humanizationを目指したサービスを提供するスタートアップが大活躍しているそうです。そして、それらサービスの特徴として挙げられるキーワードが”PersonalizationとPremiumization”です。

例えば、サービス開始前からNYに住む5万人近い飼い主がサインインしたという、ケイジに入れないでもペットと同乗できる、あるいはペットだけでも乗車可能な配車サービス「Spoton.pet」や、ウエブ上で10程度の質問に答えることでペットに必要とされるサプリメントを計15種類から4種類提案してくれる「dandy」、獣医師監修のもと世界初、犬の皮膚の状態から被毛をケアすることに着目した「Rowan」、犬の寿命を延ばし老化を遅らせる医薬品を専門に開発する「Loyal」など、“ペット・ヒューマナイゼーション”における成功事例が多くみられます。

写真)これからのペットビジネスについて相談を受ける高松氏。「株式会社QALstartups」https://qalstartups.co.jp/company/

高松氏は「このPet Humanizationの流れこそが、異業種大企業がペットビジネスに新規参入し成功するチャンスである」と提言し、「人向けに質の高い製品やサービスを提供し信頼を得ているブランド力も顧客基盤もある大企業が、Human Qualityの製品・サービスをペット向けに提供することが求められている。大企業が自社単独で取り組むだけでなく、自社が持つブランドや顧客基盤、資金力を活かして、優れた技術やノウハウ、突破力の高い営業力を誇るスタートアップと共創することで、成功確率が高まる」と説明。今後の抱負として「獣医療の専門性とネットワーク、新規事業開発のノウハウを持つQAL startupsが、異業種企業様のペットビジネスへの新規参入のパートナーを務めることで、弊社の社名であるQAL(Quality of Animal Life: 人とペットの暮らしの質)を向上する新たな製品・サービスを次々と生み出し続けることができれば大変光栄」と話しています。

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