かつて映画『レオン』を見られた方も、たくさんおられるかと思います。ジャン・レノ、ナタリー・ポートマンと今を時めく役者陣もさることながら、そのお洒落な雰囲気は、一時代を表すアイコンの一つになっていた印象もあります。ほら、男性誌にもあるでしょ?月刊誌『LEON』って。
今回紹介する映画『ガルヴェストン』は、細かい設定の違いはあれどなにか『レオン』を彷彿するような雰囲気もある作品であります。です。“ああ、完全にアメリカ作品として『レオン』を作れば、こんな感じになるのでは?”なんてパッと思う方と失礼かもしれませんが、そんな方もおられるのでは?
まあ、もちろんこの映画がオリジナルになってしまうと、残念ながら岸田一郎さんは『LEON』を作ろうとは考えなかったのではないかとも思えますが(笑)
アメリカ・テキサスの街を舞台とした、男女の逃避行
この映画は『マグニフィセント・セブン』などの脚本を担当したニック・ピゾラットの小説「逃亡のガルヴェストン」が原作の映画作品。女優のメラニー・ロランがメガホンを取り実写化されました。
裏社会に生きる殺し屋のロイは、医者の診断で余命わずかであることを知る。その夜ボスの指令で向かった先で不測の事態に直面。何者かに襲われ組織に裏切られたことを悟った彼は、相手を撃ち殺し、その場に捕らわれていた少女を連れて逃げる。行く当てもなく体を売っていたというその少女は、ロッキーと名乗った。こうして二人は、果てのない逃避行に出た…
ガルヴェストンとは、アメリカ合衆国テキサス州南東部のグレーター・ヒューストン地域内の、ガルヴェストン郡にある島内都市。ここはガルヴェストン郡の郡庁所在地であり、メキシコ湾海岸線上に位置しています。
ちなみに古くは日本の新潟市と姉妹都市ともなった場所で、劇中では閑散としたハイウェイ、そして少しすたれたモーテルなどのすさんだ光景の一方で、鮮やかさすら感じさせる海の光景と、ストーリーの雰囲気をそのまま表したような場所でもあります。
セオリーとも感じられる、見れば強く惹かれる展開
人生に絶望した殺し屋・ロイは、ひょんなきっかけで売春に手を染めていた少女・ロッキーと出会い、何の因果か逃避行の旅に出る。ロッキーは、ロイを陥れた犯罪組織のボスの、何らかの証拠を握っていた…スタイリッシュ、というよりは生きるということに対して生々しいまでにどん欲な男、さらに少女、と呼ぶには美しく成熟したレディ。
最初は全く理にかなわない逃避行劇でありますが、どうも見ているとこの二人に「近づいてていくんだろうな…」という感じで、なぜか腑に落ちるところが見えてきます。
何か男女の逃避行劇で描かれるセオリーのようでもありますが、この展開には何か「お互いのことを徐々に知っていく」という仕込みを感じさせるところであります。果たしでロイとロッキーは、最後の最後で男女の恋愛的な方向に向かっただろうか?などとつい考えてしまう人もいるでしょう、ロードムービーとしては鉄板的な展開といえるでしょう。
その一方で死を覚悟した殺し屋、そして売春婦という設定をはじめ、犯罪組織内の抗争、肉親に手をかけるような家族関係など、非常に生々しいテイストが感じられる箇所も、見る人に強い印象を与えてきます。
人物に寄り添うことにこだわった演出
この映画で主演を務めるのは、『SUPER 8/スーパーエイト』などのエル・ファニングと、『最後の追跡』などのベン・フォスター。アクション映画の出演も多いフォスターだけに、殺し屋同士の抗争などのバイオレンスなシーンで見事なファイトを見せている一方で、少女との旅に揺れ動く気持ちを、しっかりと微妙な演技で見せています。
対してファニングも見せてきます!もともとロランのファンだったという彼女だけに、出演にも気合いが入ったところではないでしょうか。映画設定では19歳という子供、大人という微妙な年ごろ、しかも複雑な家庭環境を抱えた女性が、時に妖艶な姿を見せながら、一方で旅を共にする一人の男に寄せていく思いを見事に描いています。
そして自身も女優であるロランは、登場人物に寄り添って描きたいと考え、演じる俳優陣と話し合いを重ねて脚色を進めたといいます。まさしく役者であるロランだからこその演出。それぞれの人物像は、本作の最も大きな見どころともいえます。決して派手さはない作品ではありますが、それぞれの出演者が描く人物像は、きっと見ている人にも強く惹かれるとこがあるでしょう。
『ガルヴェストン』
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