DXによるデジタルツイン化へ。身近でありながら知らない駅の開発や路線工事現場の課題と工夫

2022/12/08
マガジンサミット編集部

再開発が進む首都圏のターミナル駅。各鉄道会社が日々工事をすすめており、例えばJR東日本管轄エリアだけでも夜間工事やメンテナンス系の作業を合わせると、一晩に約100件以上が行われているそうです。

もし工事中にアクシデントが起きた場合、その影響は現場のみならず列車の遅延や運休といったかたちで私たちの生活や経済活動にも及びます。ベテラン作業員の退職、施工会社の人的資源の減少なども重なる今、JR東日本ではDXを用いた新たなリスクマネジメント対策を試みています。

先日、シリコンバレー発のIoTソリューションを提供する「MODE, Inc.」(以下MODE)が開催した「MODE Robot & Sensor DX/IoT Showcase-近未来の身近なロボット・センサーのある社会を考える-」において、興味深い話が聞けたのでレポートします。

写真)「鉄道建設工事DXへの挑戦 ~夜間・短時間工事のデジタルツイン化実証実験~ 鉄道工事DXにおけるMODEの技術」にて。
写真)JR 東日本スタートアップ株式会社の吉田知史氏。

鉄道建設工事ならではの課題とは?

鉄道建設工事には、営業線に近接した工事や夜間における作業時間の圧倒的な短さなど、他の工事現場にはない特有の制約がつきまといます。

列車が走る営業中は保安要員を配置して利用客の安全を確保しながら工事を、営業終了後の夜間には、始発までの限られた時間内に、軌陸車で資材機材等を運搬したり、ホーム下などの狭隘・狭小空間で作業したりします。また、列車を止め一気に作業を行う大規模切換工事では、念入りなスケジュール管理が絶対になります。

そのため通常、建設現場では発注をうけた施工会社が現場代理人および現場監督を務めるところ、JR東日本では、発注者かつ事業者の立場として安全管理やプロジェクトの工程監理、構造物の品質管理を行っています。

現場に携わったMODEの村岡氏は、「1回の工事が終電から始発までのたった3~4時間しかない。準備と撤収時間を入れれば作業できる時間はもっと少なく、ミスも許されない」と他の建設現場と違う圧倒的な難易度の高さを指摘。少しでもセンシングを活用して現場に貢献したいと、強い想いが湧いたそうです。

写真)MODE, Inc. の村岡正和氏。

多様なデータを収集し統合的に可視化

作業現場範囲が1km以上と非常に広く、なおかつ夜間での作業では、事故や事象が起きてから、初めてその現場の危険性やルールから外れた作業を行ったことが明らかになることがあります。

そこでMODEでは、作業員や機器類の位置情報や稼働状況がリアルタイムで確認でき、さらに1つのアプリケーションで把握できるセンサーを活用したシステムの構築が必要と考え、夜間工事中の作業効率・安全性が“見える化”するデジタルツイン化を提案。

2022年1月~3月に行われた夜間の鉄道工事現場をDXする実証実験では、準天頂衛星対応のGPSトラッカーを作業員や軌陸車につけトラッキング、作業員にはバイタルを測定する100円玉サイズのパッチセンサーを貼り付け、その位置情報とともに歩数や体温を計測しました。

また、鉄道工事の安全を守るための保安機器の設置・撤去忘れ課題の解決として「設置した/しない」を、GPSセンサー等を使って検知するなど、鉄道建設工事での“unknown”を無くして生産性と安全性の向上を目指す鉄道建設工事 DX化を試みました。

写真)作業員の位置や保安機器設置等の確認が、ひとつのアプリケーションで確認できる。

計測の結果、限られたエリアを4時間で14,000歩も移動している作業員がおり、予想以上に忙しない現場でヒューマンエラーが起きやすい状況であったことが確認されたそうです。一方、システムの課題としては、対象作業路線から外れたエリアのカバーと位置情報の正確さや、デジタル機器装着時の煩わしさ・充電・保管などの改善点が挙がりました。

JR東日本スタートアップ株式会社の吉田氏は「データを積み重ね、もし、そのなかに事故につながったケースが残っていれば、予見と今後の対策に活用できる」とし、今回の実証実験で得られたデータ分析をもとに現場業務をアップデート。さらにBeforeデータと比較することで導入効果と新たなボトルネックを明確化するといったPCDAサイクルを回し、持続的な現場改善を見据えたいとしています。

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