
山梨県内の産業や文化に根ざしたデザインを顕彰する新たなプロジェクト「山梨デザインセレクション」が初めて開催された。東京ミッドタウンで行われた表彰式では10件の受賞作が発表され、審査を務めたデザイナー4名が、山梨の産業資源や地域らしさ、デザインの未来について語り合った。
本記事では会の概要と、セレクションが示した山梨のポテンシャルを振り返る。
地域の価値を“可視化”する初の試み

山梨デザインセレクションは、2024年に設立された山梨デザインセンターが主催する。目的は、県内に眠るデザイン資源を掘り起こし、その価値を社会に伝えていくことだ。単に優れた製品を表彰するのではなく、「山梨だからこそ生まれたもの」に光を当てる点に特徴がある。
初開催にもかかわらず、応募は137点に達した。形や用途が異なる多種多様な応募作が揃ったことは、審査員にも驚きとして受け止められたという。審査は一次選考で絞られた83点を対象に4名が実物確認を行い、最終的に10点の受賞作が選ばれた。

審査を担当したのは、永井一史、深澤直人、柴田文江、林千晶の4名。いずれも国内外で活躍するデザイナーであり、グッドデザイン賞審査委員長経験者も含まれる豪華な顔ぶれだ。審査基準として重視されたのは、造形の巧みさ以上に、山梨の文化や風土とのつながり、つくり手の思想が「嘘なく」表れているかどうかだった。
10の受賞が示した“山梨である必然性”

今回の受賞作には、食、工芸、アウトドア、日本酒に加え、社会課題まで視野に入れたプロジェクトが含まれた。たとえば、生姜農家が手がけるジンジャーシロップは、ワイン文化に馴染めない自らの経験から、お酒を飲めない人でも夜の社交を楽しめるように発想したものだ。ワインやビール醸造、宿泊施設を融合したプロジェクトは、土地と体験を丸ごと設計している。

和紙や花火などの伝統文化も、現代の生活に届く形へ再翻訳されている。ミニチュアサイズの書道半紙や、家庭でも楽しめる「和火」は、伝統を守るだけでなく日常の中へ広げる視点がある。害獣から食材へ転換するジビエ施設の取り組みは「課題を希望に変えるデザイン」として評価された。

こうした受賞作に共通するのは、単にものが良いというだけではなく、山梨という土地に根ざした必然性を帯びている点だ。素材、産業、生活文化、あるいは山岳地帯特有の地形に伴う課題や環境が、つくり手の思考に深く入り込み、それが形として現れている。審査コメントにも「見た目の飾りではなく、背景を理解した上で姿が決まっている」という評価が相次いだ。
山梨らしさは自然と家業の積み重ねに宿る

表彰式後に行われたトークセッションでは、「山梨らしさとは何か」という問いが中心となった。
深澤直人氏は、甲府盆地を囲む山々により、外資や大規模資本の影響が入りにくかったことが、家族経営の産業を守り続けてきた一因だと説明。世界で伝統ブランドが買収される中、山梨にはいまも世代を超えて営みを続ける店や工房が点在する。この“家業が持つ累積の強さ”こそ、地域デザインの源だと語る。

林千晶氏は、山梨の自然環境との距離感に着目した。果樹が育つ豊かな土壌、和紙の原料となる植物、そして野生動物の存在。自然が先にあり、人が後から知恵を積み上げてきた土地柄であることが、プロダクトの思想に反映されているという。「自然と文明の対話が山梨らしさを形づくる」という視点が印象的だった。
一方で柴田文江氏は「上から着せたデザインでは山梨を語れない」と指摘する。表現だけではなく、作る理由、変える理由が生活や歴史と整合性を持つ必要がある。今回の10点は、その条件を満たしていたという。
セレクションは“目的”ではなく“入口”。地域と世界の橋渡しへ

永井センター長は閉会にあたり、このセレクションを「山梨のデザインが社会とつながる起点」と位置づけた。今後は認証マーク活用や受賞企業のネットワーク形成にもつなげ、行政や観光分野との連携も視野に入れる。
重要なのは、今回選ばれなかった多くの応募にも、地域の未来を考える姿勢が確かに存在したことだ。セレクションは競争ではなく、地域の営みの総体を可視化する場であり、山梨の文化そのものの発展に寄与することを目指している。
初開催の成果は、「山梨にデザインはあるのか」という問いを、「山梨にしか生まれないデザインがある」という実感へと変えた。次回、どのような作品が山梨の未来を照らすのか、ぜひ注目してもらいたい。
山梨デザインセレクション専用ページ:https://ydc.pref.yamanashi.jp/special/2025/yamanashi-design-selection/







