甲府市は水素エネルギーの集積地! 最先端「水素・燃料電池バレー」を目指す山梨県の取り組みとは?

2020/12/08
マガジンサミット編集部

次世代エネルギーとして何かと話題になる水素。筆者個人的には、世界3大レースのひとつ「ル・マン24時間レース」が2024年に水素部門を創設するというニュースに、ガソリンに替わる燃料として大きな期待を寄せられていることを改めて実感した次第です。

ところで水素エネルギーの何が凄いのか? 実はあまり良く知りません。そこで今回は、水素エネルギーの製造や貯蔵、輸送、利用といった研究機関の集積地であり、将来的に「水素・燃料電池バレー」を目指す山梨県にお邪魔し、その取り組みを取材しながら、いまさら聞けない“水素エネルギー”について学びたいと思います。

写真)山梨県甲府市「水素技術センター(Hydrogen Technical Center)」

そもそも水素エネルギーとは?

水と酸素を電気化学反応させて電気を取り出す水素エネルギーは、そのエネルギー効率の高さや半永久的に使える資源の豊富さ、二酸化炭素などを排出しないクリーンさなどが特徴で、次世代環境エネルギーとして期待されています。

また、都市ガスやLPガスなどから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させ、電気を生み出す家庭用燃料電池「エネファーム」のように、発電時の騒音や振動が極めて低いことや保存や輸送・運搬がしやすいことなども水素エネルギーの利点です。ちなみに「燃料電池」とは、乾電池や蓄電池のような電気を貯めておくものではなく、水素と酸素を化学反応させて電気エネルギーに変換する“発電設備”のことを指します。

再生可能エネルギーで水素ガスを製造する

水素(H)は様々な物質を構成する元素であり、化石燃料、バイオマスガス、下水汚泥、また、製鉄所や化学工場から出てくる副生水素からも抽出できるため資源を確保しやすいといえます。

しかしCo2の排出を抑えて抽出するには、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなどの再生可能エネルギーを利用する必要があり、その研究・開発のために設立されたのが、今回、訪れた山梨県の「米倉山実証試験用太陽光発電所」です。

日本屈指の日照時間を誇る山梨県は、太陽光発電の取り組みが盛んな地。甲府市の南部に位置し、約12.5haという内陸部国内最大規模を誇る「米倉山太陽光発電所」の一角にある同施設と、次世代エネルギー啓発施設「ゆめソーラー館やまなし」では、太陽光パネルや小水力発電などから生み出された電力を基に、水から水素を製造し貯蔵利用する「Power to Gas(P2G)」システムの実証研究を進めており、エネルギーの自給自足によるCO2ゼロ運営を行っています。

写真)「米倉山太陽光発電所」のソーラーパネルからは年間、一般家庭3,400軒分の年間使用電力量に相当する約1,200万kWhが発電されている。

写真)啓発施設「ゆめソーラー館やまなし」内で設置、公開されている「純水素型燃料電池」

写真)太陽光で得た電力は、施設内に設置された「水電解装置」で水素と酸素に分解される。

この取り組みは低炭素社会の実現と共に、自然現象に影響されやすい太陽光発電の不安定な部分を効率的に補い、さらには太陽光発電で余ったエネルギーを貯蓄し活用するなど、再生可能エネルギーの課題を解決する役割も担っています。

山梨県ではP2G システムを利用した水素供給の実証研究として、今年度中に県内最大手のスーパーマーケット「オギノ」の向町店にて、水素を貯蔵した「水素カードル」と電気を製造する「純水素燃料電池」を店舗後方に設置し、売り場の照明などに活用する予定だそうです。

写真)敷地内に生えた草を食べる発電所のマスコット的存在の山羊。2頭で年間2~3haの除草ができるそうだ。

水素ガスを安全に運搬・貯蓄するノウハウ

このように製造、貯蔵された水素ガスを私達が安全・安心に利用できるよう管理、運営などの技術開発を目的に設立されたのが「米倉山太陽光発電所」に隣接する「水素技術センター(Hydrogen Technical Center)」です。

一般社団法人 水素供給利用技術協会(HySUT)が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業で2017年に開設した同施設は、国内唯一の実環境下におけるオフサイト方式の水素ステーション技術開発施設であり、水素ガスを受け入れるための「カードル」、ガスを圧縮し貯蓄する「圧縮機」や「蓄圧機」、水素を冷却する「プレクーラー」、充填するための「ディスペンサー」などが設置されています。

写真)「ディスペンサー」。一般的なFCV車ならば3分で充填が可能。

写真)水素ガス受入設備「19.6MPaカードル3基」

写真)「レシプロ式の圧縮機。87.5MPaまで圧力を上げることができる。

写真)「蓄圧器」

写真)「水素充填試験車両(HySUT号)」

FCV車両だけではなく専用容器にも充填可能。また、国内商用水素ステーションでは不可能な国際基準の充填最高圧力である87.5MPaに対応しており、実環境における水素連続充填試験による耐久性試験、高耐久性機器の開発など行っています。

ちなみに「燃料電池」は、充填する際の供給圧力が高いほど燃料の量も増えるので、ガソリンの燃費と感覚が異なり興味深いところです。

現在、日本には135ヵ所※の商用水素ステーションがあり、HySUTでは2025年までに現在の2倍までに増やすことを目標としており、「水素技術センター」では、これら水素ステーションの増設に向けた設備仕様の見直しや整備・運営コストの低減、安全性の確保など、さまざまな角度の実証実験に取り組んでいます。(※2020年11月末時点)

イベント会場や被災地に電気を届ける

水素ステーションから水素を充填し、貯蓄・運搬できる利点を活かした事例のひとつが、トヨタ自動車と本田技術研究所が共同で取り組んでいる移動式の発電・給電システム「Moving e(ムービングイー)」です。

燃料電池バス(FCバス)をチャージングステーションとして改良したトヨタの燃料電池バス「CHARGING STATION」に、Hondaの可搬型外部給電器「Power Exporter 9000」、可搬型バッテリー「LiB-AID E500」・「Honda Mobile Power Pack」及びその充電・給電器「Honda Mobile Power Pack Charge & Supply Concept」などの他、必要機材を積み込み移動して電気を供給します。

写真)日本に1台しかないトヨタ・ホンダのMoving e(ムービングイー)給電バス。

給電口は2ヵ所。床下に水素タンクを9個積載し、「Honda Mobile Power Pack」20個、「LiB-AID E500」36個を搭載しています。航続距離は従来のFCバスが約200kmだったのに対し400kmまで伸び、被災地により近い位置まで走れるようになりました。

最寄りの水素ステーションから被災現場まで、まるで“電気のバケツリレー”をするかのようにエネルギーを運べ、その能力をフルに活用すると50人が1日に使用する電気量を3~4日くらい賄えるそうです。

千葉県に大きな損害をおよぼした2019年の台風被害をきっかけに開発された「Moving e」ですが、通常時はお祭りや音楽フェスなどのイベントで活用することも可能で、非常時と通常時の両方を “フェイズフリー”するコンセプトのもと運営されています。

写真)バッテリーを降ろすと仮眠所や休息所として利用できる。

ところでなぜ山梨県で水素なの?

山梨県における水素・燃料電池分野の取り組みの特徴は、山梨大学をはじめとした産官学の連携体制が整っていること、水素エネルギーの製造から貯蔵、輸送、供給、利用といったフルスペックでの研究機関が集積していることなどが挙げられます。

なかでも山梨大学では40年以上にわたり、水素エネルギー利用の核となる燃料電池の研究が行われており、2008年にNEDOの事業として山梨県の支援のもと甲府市内に設立された、世界トップレベルの研究施設「山梨大学燃料電池ナノ材料研究センター」では、現在も国の燃料電池プロジェクトを牽引しています。

また、同大学では基礎からシステムの組立実習までを一貫して行う「水素・燃料電池関連製品開発人材養成講座」を開設しており、飯山明裕センター長は「燃料電池産業の未来を担う人材育成に力をいれ、山梨県との連携を一層深めながら、サプライチェーンの構築に尽力したい」と話し、アカデミアの立場から燃料電池の普及拡大に貢献したいとしています。

写真)「山梨大学燃料電池ナノ材料研究センター」

写真)同センターで研究開発された高機能“非フッ素系電解質膜”。燃料電池製造のコスト削減に貢献。

写真)燃料電池の“単セル”。真ん中に電解質膜が挟まっており、その間を酸素と水素が通ることで反応が起きエネルギーが生まれる。

また、長崎幸太郎 山梨県知事は「山梨県の官民一体となった取り組みは海外からの注目も高い。我々の水素燃料電池研究は最先端と自負しており、日本をはじめ世界からも“水素といえば山梨県”と思っていだけるようにしたい」と水素エネルギー開発と燃料電池研究をリードする山梨県「水素・燃料電池バレー」の実現を目標に掲げています。

写真)長崎幸太郎 山梨県知事

現在、地球温暖化対策の一環としてイギリス、アメリカ、中国などをはじめ世界的にガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止する方針が発表されており、日本政府でも2030年代半ばにガソリン車の新車販売を禁止する方向だそうです。

新エネルギーで走る自動車とその環境整備はまったなし。まだまだ課題が山積する新エネルギー開発ですが、今後、山梨県は水素エネルギー分野において存在感を増していくのではないでしょうか。

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