水に流せない水の話!?日本の水道は大丈夫?なぜ水道法の改正が行われたのか 吉村 和就氏インタビュー

2019/12/03
マガジンサミット編集部

10月1日に「改正水道法」が施行されました。なぜ水道法の改正が行われたのか、それは「人口減少に伴う水需要の減少と水道料金減収」、「水道施設の老朽化」、さらに「少子高齢化による人材不足」など、日本の水道が直面する課題解決が急務だからです。

日本の水道の普及率は全国で98%、直飲率(蛇口から直接飲んでもお腹を壊さない率)は100%という驚異的な数字を誇っています。水道水が飲める国は世界193ヵ国(国連加盟国)でたった16ヵ国しかなく、私達は世界最高水準の水道インフラの恩恵を受けて生活しています。

そんな安くて安全な水を、私たちはいつまで使い続けることができるのでしょうか。ニュースなどで崩壊寸前だと伝えられる日本の水道事業について、編集部は知らないことばかりです。

そこで今回は、NHKをはじめ多くのテレビ番組の解説者としてもお馴染み、日本を代表する水環境問題の専門家、グローバルウォータ・ジャパン代表 吉村和就氏に「改正水道法の狙い」や「日本の水道事業の将来」について伺いました。

1.国民に正しく理解されていない水道経営

吉村:昭和30年代からの高度経済成長期にあわせて急拡大した日本の水道管網は、約66万㎞におよび、これは地球16周半に相当します。配管の寿命は40年ほどで、現在、全体の15%(地球2周半くらいの長さ)が既に老朽化しており、年に約2万件の漏水事故が報告されています。

老朽化した配管を取り換えるためには1㎞あたり、約1億円かかりますが、人口減少による水道料金の減収、節水機器の普及による減収、水道水を使わず、直接地下水をくみ上げ利用する大型施設(スーパーマーケット、大病院など)の増加など、さまざまな事情で徴収できる水道料金は毎年200億円ずつ減っています。

また、30年前には8万人いた水道経営に携わる職員は4万人に減っており、日本の水道事業は人(ヒト)・資金(カネ)・設備(モノ)が低下する三重苦に陥っているのです。

このような危機的な事態を打開しようと昨年12月に成立した「水道法改正」では、1,400ある「水道事業体同士の広域化・統合など」社会情勢にあった運営の見直しと、民間の知恵と資金を借りる「コンセッション方式の導入」という大きく2つの法整備を掲げています。

2.コンセッション(公設民営)=民営化ではない?

吉村:さて、このコンセッションについて“水道の民営化は許さない”とか“外資系の水メジャーに日本の水道を売り渡すな”などと、一部で反対の声があがりました。

簡単に説明すると従来の民間委託制度では、大きな投資は公共(自治体)が行い、部分的な維持管理事業だけを民間が請け負うために、根本的な改革やサービス向上に結びつきませんでした。そこで、より大きな改革を行うためにコンセッション方式が導入されたのですが、反面、民間企業や外資系企業が経営主体となれば企業の権限が大きく増し、水道料金の著しい値上がりやサービスの低下、技術の海外流出などに繋がると心配されているわけです。

コンセッション方式=民営化ではありません。そこに誤解があるようですが、コンセッション方式とは水道法で定める「水道供給は公の義務である」という定義のもと、施設の所有と最終的な運営権限は公共団体等が保持した上で、事業全般の運営を民間に委ねるフランス型の運営委託方式です。フランスでは160年の歴史があります。

その運営委託方式の中には資金調達や建設費などは公共団体等が行い、民間資金を活用しないアフェルマージュ方式(フランスでは95%を占める)というコンセッションの類型もあり、けして民間企業にすべてを丸投げするようなことではないのです。

水道は命の水という大切なライフラインです。大型台風の上陸や地震などの大災害が起こった場合、民間企業だけでは対応が難しく、激甚災害ともなれば県知事が中心に動くことになります。もちろん被害状況によっては公的資金を投入する必要も出てくるでしょう。そういった意味でも水道事業を民間のみに任せるのは難しいと思います。

3.現在の仕組みでは公も民間も儲からない

吉村:そもそも現在の仕組みでは、リスク覚悟で3重苦に陥っている水道事業をまるごと引き受ける民間企業がいるかどうか疑問なところです。

実は、水道料金は地域によってかなりの差があり、例えば、山梨県富士河口湖町は835円、北海道夕張市では6,841円(一般家庭での平均的使用量20m3/月換算)と全国で8倍の料金格差があります。これは「水源水質の良さ」、「人口密度」、「立地環境」などによるものです。

水事業において削減すべき課題のひとつが電気代で、例えば、東京では人口増加にともない、最下流の利根川から取水し処理した浄水(水道水)を都内23区、1200万人に年間15億トン送っています。わざわざ下流から上流へ水の供給を行っているわけですから、その分の電気代は余計に嵩みます。

さらにビルが多い首都圏は、一般的に行われている重力式給水方式ではなく水をポンプで送水する直結給水方式で、より電気代がかかります。東京都水道局では年間の電気代は約150億円かかっています。(水道水1トンあたり15円の電気代)また日本全体では総電力需要量の0.8%が水道事業に使われています。

それでも東京は給水人口が多いため採算が取れますが、1,400ある市町村の8割は給水人口が5万人以下で、誰がやっても赤字になる可能性があり民間会社にしてみればなんの魅力もないでしょう。

4.水道料金の値上げは避けられない?

吉村:民間企業が水道事業で利益を出すためには、今の水道料金の2倍~3倍の価格になるとが予測されますが、これは妥当な値段かも知れません。

水道料金は公共料金のなかでもっとも安く、一世帯(4人家族)であれば平均3,440円(日本水道協会調べ)。1人当たりでは1,000円にも満たない計算になり、命に係わる水の値段にしては安すぎと感じます。スマホ代金、電気代と比べれば、少なくとも1人2,000円くらいに引き上げても良いのではないでしょうか

もちろん、値上げをする前に改善できることはたくさんあります。市町村でバラバラに運営されている水道事業体の再編と広域化、アナログデータの整理IT化による天候予測と給水予測による造水コスト削減、漏水調査の効率化など、今回の「水道法改正」は水道事業の無駄を減らし、効率化し、近未来の日本に適した水道事業規模に刷新させる大きなチャンスです。

実際に、現段階で「水道法改正」を先取りし上手く動き出している地方自治体の事例もあります。いくつか紹介しましょう。

水道経営は前述のように地域により大きく異なります。一つのセオリーや単純方程式では解くことが出来ません。地域に根差した解が求められています。

①官官連携…岩手方式

吉村:岩手県の2市1町(北上市、花巻市、紫波町)とを構成団体とする用水供給事業体「岩手中部水道企業団」は、官と官が協力し成功した例です。北上川流域の2市1町が保有する施設を統廃合し、広域化によるダウンサイジングの実践により6年間で浄水場9ヵ所を廃止。地域によってムラがあった水道料金を適正価格に統一し、料金回収率100%を維持することにも成功しています。

②官民連携…広島方式

官と民の取り組みが成功した例では、広島県の「水みらい広島」方式があります。これは広島県企業局と呉市、そして民間会社「水ing」による株式会社で、民間主体の水道事業運営会社(民間企業・水ing社65%,広島県65%出資)の先駆けとなりました。注目すべきは、約170人いる従業員は市や県の職員をふくめて積極的に地元人材を雇用し、地方創生に一役買っていることです。

水道事業は経験工学の面があり、従業員は地域の水源状態や気候のパターンなどを把握する必要があります。定年をむかえる人達の保有する貴重な経験やノウハウを次世代の若者に継承できるメリットもあります。

さらに「水みらい広島」では、従業員にタブレットをもたせ浄水場の情報を共有し仕事の効率化を図りました。従業員全員が浄水場の状況をリアルタイムで把握することで、担当部署の垣根を越えた気づきが生まれ、積極的に改善提案がされるなどの職場改革が進み、民間会社ならではのフレキシブルさと、公務員ならではの真面目な仕事ぶりが相乗効果を生みました。

この「水みらい広島」は2年で黒字に転換しました。民間会社でありながら、市や県も株主になり、利益の処分や人事にも参画するという官民連携の成功例でしょう。

③11水道事業体…香川方式

県全体が主体となり合理化をはかったのが香川県です。香川県と県内8市8町の上水道事業を、全国で初めて県内1水道として運営する「香川県広域水道企業団」を設立。17あった事業を統合し効率化をすすめ、県内浄水場71ヵ所を38ヵ所に統廃合する計画や、管路更新基準を新しく定めるなど先駆的な取り組みをしています。

④コンセッション方式…宮城方式

一方で、宮城県のようにコンセッションに積極的な自治体もあります。民間企業のノウハウを活用することで、20年間で546億円を削減できると試算しており、対象事業には約47社が関心を示しているそうです。来年4月に向け事業のガイドラインを作成中です。

このように、それぞれの地域の実情に適した水道事業の再生方法があり、必ずしもコンセッション方式が正しいとも、間違っているとも言えないのです。

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