
日本の未来を担う若手経営者のネットワーク「公益社団法人日本青年会議所(JCI日本)」と、生活者発想のプロフェッショナル「株式会社博報堂 100年生活者研究所」がタッグを組んだ、ある革新的なプロジェクトが産声を上げた。その名は「日本ウェルビーイング研究会議」。
「ウェルビーイング」という言葉がビジネスシーンに浸透して久しいが、多くの企業ではまだ「福利厚生の一環」や「働き方改革の延長線上にあるコスト」と捉えられがちだ。しかし、本会議が目指すのは、そのパラダイムシフトである。幸福を「利益と循環する経営戦略の核」と定義し、いかにして企業の持続可能性を高めるのか。2026年3月6日に開かれた設立記者発表会の模様から、これからの「100年企業」の条件を探る。
「家庭」を社会の最前線と捉える、新時代の経営哲学

発表会の冒頭、JCI日本の第75代会頭・加藤大将氏は、現代社会が抱える閉塞感に触れながら、プロジェクトの意義を語った。
「若者が将来に希望を持ちにくい今だからこそ、社会全体の幸せの作り方そのものを問う必要があります。私は、家庭こそが社会の最前線にあると考えています」
加藤氏が提唱するのは、職場という限定的な空間でのウェルビーイングに留まらない、よりシームレスな幸福の形だ。心から安らげる家庭や、信頼できるパートナーとの関係性が、社会へ踏み出す活力となり、結果として企業の発展を支える。この「個人の幸せ」と「経済的合理性」の高度な両立を証明することこそが、本プロジェクトの大きな挑戦である。
「従業員」ではなく「生活者」として向き合う。博報堂の知見

これに呼応するように、博報堂の執行役員・宮澤正憲氏は、同社のDNAである「生活者発想」を経営に導入することの重要性を説いた。
「これまでの人的資本経営は『仕事と組織』の二元論で語られがちでした。しかし、働く人は一企業人である前に、誰かの父であり母であり、地域社会の一員である『生活者』です。この多面的な視点を無視して企業の成長は望めない時代に来ています」
同プロジェクトのシンボルマークは、ワーク(仕事)とウェルビーイングが境界線を溶かし合い、シームレスに繋がっている状態を表現している。従来の「ワーク・ライフ・バランス」という切り分けた考え方から一歩進み、人生という大きな流れの中で幸せを捉え直す姿勢が鮮明に打ち出された。
データが証明する「幸福と業績」の相関関係

今回の発表会で特筆すべきは、設立に先駆けて実施された「プレ調査」の結果だ。373名の経営者を含む最新データは、従来の定説を覆す興味深い事実を示している。
調査では、好業績かつ長期的視点(10年、20年先)を持つ企業を「100年企業」と定義。その経営者の特徴として、以下のスコアが一般企業に比べて顕著に高いことが判明した。
・自身の志や幸せが企業の成長に繋がると実感している:約8割(一般企業の1.4倍)
・社員の仕事における成長実感:1.3倍
・パートナー(家族)と夢や弱みを共有している経営者:1.6倍
特に「弱みの開示」がウェルビーイング経営の第一歩になるという指摘は、強がることが美徳とされた従来のリーダーシップ像を刷新するものだ。
「幸福な社員は創造性が3倍」幸福学の権威・前野隆司教授の視点

特別ゲストとして登壇した武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司教授は、幸福学の知見からこの結果を強力にバックアップした。
「世界中の研究で、幸せな社員は不幸せな社員に比べて生産性が31%高く、創造性は3倍高いことが証明されています。つまり、ウェルビーイングは『結果』である以上に、利益を生むための『資本』なのです」
前野教授はまた、本プロジェクトが「生活」の側面を深く掘り下げている点を高く評価した。国連でもGDP(国内総生産)に代わる指標としてGDW(国内総幸福)の議論が進んでいるが、仕事だけでなく「ライフ全体」を経営のエンジンとして捉える今回の試みは、国際的な議論よりも先を行く、日本発の新しい経営モデルになる可能性を秘めている。
社会実装に向けたロードマップ

「日本ウェルビーイング研究会議」は、単なる研究組織では終わらない。JCI日本が持つ全国665の青年会議所ネットワークを通じて、抽出された「成功法則」を各地の中小企業へ試験導入し、モデル企業の認定や成果の公開を行っていく予定だ。
今後のスケジュールとしては、5月・6月に企業向けのウェルビーイングセミナーを開催。実際に企業のヒアリングを行い、社員の幸福度がどう業績に還流するかを伴走支援しながら検証していく。そして、10月に開催されるJCI日本全国大会において、より詳細な調査結果と社会実装の成果が発表される見込みだ。
幸福で判断できる経営へ

「幸福を語る経営」から「幸福で判断できる経営」へ。財務諸表だけでは測れない「未来の成長ポテンシャル」を可視化する独自の物差し(ウェルビーイング成長指標)の開発は、人材不足や生産性の向上に悩む多くの地域企業にとって、一筋の光となるだろう。
日本青年会議所の持つ若き機動力と、博報堂が培ってきたリサーチ力。この異色のタッグが導き出す「100年企業の処方箋」が、日本経済の景色を鮮やかに変えていくことを期待したい。
日本ウェルビーイング研究会議公式サイト:https://japan-well-being-conference.studio.site/







