三菱電機の協力会社として、エレベーターや工作機械の部品など大型構造物を手掛けてきた丸菱製作所。創業70年を超える同社は、加工技術を商品として工場間でシェアを行う技術のECサイト、「ASNARO(アスナロ)」を立ち上げました。専務取締役を務める戸松裕登氏に「ASNARO」によって実現したい未来についてお話を伺いました。
協力会社からの一言をきっかけに誕生した「ASNARO」
「ASNARO」を立ち上げた一番のきっかけは、弊社の協力会社である社長さんに「今ある設備が壊れたら、この事業はやめようと思っている」と打ち明けられたことです。その社長さんは私がチャイルドシートに乗っている頃からずっと弊社とお付き合いのある会社でした。これまであった受注が少なくなっていること、この仕事が5年先も本当にあるんだろうかと考えたときに、昔とは違い、今は30年先に元を取るような大きな設備投資はできないと。「この先再投資するほどの仕事を御社は出せていない」とはっきりと言われたのです。弊社も同じ製造業として業界の厳しい状況を痛い程感じていますから、ずっと密な関係であった社長さんからの厳しい言葉に、返す言葉がありませんでした。
しかしよく考えると、実は弊社でも同じ悩みを抱えているのです。大型の製品をつくるための大型設備の寿命が間もなく来るのですが、これを本当に今まで通り何も考えずに購入して更新していいのだろうかと。私たち製造業に携わる同業者は皆同じような悩みを抱えていました。ですので、例えば設備を買わないという選択肢をしたときに、その設備を持つ違う工場にその部分だけでも仕事を頼んで事業をやめるのではなく続ける選択をし、勇気を出して購入した場合にも皆さんにシェアをして利益を得る構造をつくれないかと考えました。そうしたらずっと付き合いのあるあの社長さんも事業をやめなくてもよかったのではないかと思ったのです。そこで製造業に携わる当事者として、製造業の技術のシェアを行うプラットフォームをつくろうと決意したのです。
「ものづくり王国」愛知から全国へ拡大する
「ASNARO」は工場間の「受注したい」「発注したい」を結び付ける技術のECサイトです。例えば、突然仕事量が増えて手が回らなくなった工場が、生産設備や能力があり、現在快く受けてくれる会社を「ASNARO」上で検索することが可能です。閑散期に受注したい工場にとっても、そのスケジュールでピンポイントに受注することができます。
テーマを「製造業のフリマサイト」とし、新しいお客さんを主要顧客として探す場所というよりは、今困っている部分を解決するための小規模取引に強みを持っています。というのも、やはり私たち製造業の会社には主要のお客様がいらっしゃいます。そのお客様を大切にして、スケジュールが空いたときにだけ空きリソースを共有することができる仕組みが必要なのです。発注側も困ったときにだけ仕事をお願いすることができる、受発注双方にメリットがあるのがこの「ASNARO」です。
2022年の4月の立ち上げから2年間、愛知県や中部地方を中心に約500社を回ってきて400社を超える会員登録に上り、8割という高い登録率で拡大してきました。ものづくりの盛んな愛知には製造業の中小企業が数多く存在し、まずは1000社を超える登録を目指して1社1社ご説明に上がっています。
3年以内に愛知県を中心としたローカルネットワーク内でビジネスモデルを確立し、5年以内に全国区へ展開できるプラットフォームとなることを目指しています。日本は町工場同士の取引で約4兆円の市場があるため、「ASNARO」がより活用されることによってこの市場はもっと大きくなると確信しています。
「継いでいきたい」と思える製造業界に
中小企業の約半数が廃業を予定しているという調査結果も出ているように、今までの課題は後継者不足による廃業問題でしたが、実は今、親が子に継がせたくないという経営者側の判断による廃業の理由が多いのです。
親から継いだ私も自分の子供を持つ前は、自分の世代で終わらせても仕方ないという考えでした。しかし、子どもが生まれ、改めて家業について考えました。継ぐべきかどうかよりも、子供自身が「継ぎたい」と思ったときに、親として「継がせたい」と思えるような業界にするのは私の義務だと思ったのです。
この業界の形が変わり、製造業の皆さんが利益を得られるような構造になっていたとしたら、息子に継がせたいと思えるのではないでしょうか。
今は多くの中小企業が、メーカーからの大きな商流の中で事業を行っていますが、「ASNARO」ではその商流を超えて受注発注をすることができます。クラウドファンディング等で新たにものをつくりたい方が増えてきた今の時代、どこに頼めばいいか分からず中国にとりあえず発注するという従来の流れも変えて、「ASNARO」上で日本の工場と出会い発注することができます。大学発ベンチャーで製品をつくろうと思ったとき、大学にはない数億を超える製造機械も工場にはあるので、私たちの空きリソースを利用してもらえば面白いことがきっとできるはずです。特殊な加工技術を持った日本の町工場が、海外のメーカーから受注することもできるようになるはずです。
受注したい人と発注したい人を結び付ける場所となり、製造業の明日(あす)になろうということで、「あすなろ(ASNARO)」です。多くの方にご活用していただきたいですね。
■プロフィール
愛知県にて創業以来70年にわたり金属加工業を営む「株式会社丸菱製作所」の三代目跡継ぎ。大学卒業後、家業である丸菱製作所に入社してサプライヤの仕事を学ぶ中で、日本の製造業の枠組みの継続性に疑問を感じ、加工技術を商品として工場間でシェアを行う技術のECサイト「ASNARO(アスナロ)」を立ち上げる。
株式会社丸菱製作所
https://www.marubishi-co-ltd.com/