
東京ミッドタウン日比谷に新設された「東京ミッドタウン日比谷 ホール」のこけら落としとして、現代美術作家・平子雄一による大規模な展覧会「HUMAN AND NATURE」が9月5日(土)から10月18日(日)まで開催されている。総面積1,200㎡超の大空間に、絵画や彫刻など新作を含む約300点もの作品が集結した。会期中の9月12日(土)には、平子の作品世界をより深く体感する試みとして、子ども向けと大人向けそれぞれのワークショップ「ものがたりをつくる」が開催された。
会場には、木材で作られた大小さまざまな立体オブジェや、鮮やかな色彩の絵画、スケッチのような平面作品が並ぶ。鹿のような角と植物の頭部を持つ人物を中心に、寄り添う猫や犬などの動物、積み上げられた本、花瓶や果物といった象徴的なモチーフが至るところに散りばめられている。

本展の監修・企画を務める美術評論家の秋元雄史が「平子の作品は言葉で語られる固定のストーリーがあるわけではなく、モチーフの組み合わせから観る側が自由に想像を膨らませるもの」と解説する通り、平子自身もあらかじめ物語を完結させて描くのではなく「物語があるように配置している」と明かす。四角いフレームの中で一定の距離を保って向き合う絵画から、360度どの角度からもその存在感を肌で感じられる木彫作品へと歩みを進めるにつれ、作品と自分との距離感は自然と縮まっていく。

圧巻なのは、展示の最後を飾る最大約3.5mの巨大モビール群のエリアだ。天井から色鮮やかな植物頭の人物や動物、果物の立体造形が吊り下げられ、鑑賞者はその間を回遊しながら作品群の内部へと入り込んでいく。平子自身が「空間に入り込むことでパッと見では処理しきれないが、全身で得るものがある」と語る通り、圧倒的な没入感に包まれる空間である。
特筆すべきは、このエリアが敢えて外光を取り込む設計になっている点だ。大きな窓から陽光が差し込む日中は明るく柔らかな光に満たされ、日が暮れると屋内の照明に照らされ、日中とは異なる表情へと変貌を遂げる。時間帯によって作品の見え方が移り変わる設計は、都市と自然の境界を問う本展のコンセプトを鮮やかに体現している。

展覧会タイトルの「HUMAN AND NATURE」について平子は、自然を利用し保護してきた「人間ありき」の視点から、今後自然とどう付き合うかを考える契機にしたいと語っている。都市の一角で光の移ろいとともにアートを体感する経験そのものが、思考を促す装置として機能している。
この世界観をより能動的に味わう試みとして実施されたのが、9月12日午後の大人向けワークショップだ。当日は約20名の参加者が集まり、まずは展示会場を実際に巡ってモチーフとなる作品を探し、手元のスマートフォンに写真を収めていった。その後、白紙の冊子に向き合い、選んだモチーフを起点に絵を描き進めながら自分だけのストーリーを紡ぎ出していく。

完成した作品には、山から転げ落ちる植物頭の人物を描いたものや、猫を主役にした物語、植物頭の人物と猫が暮らす日常、さらには植物頭の人物が悩みながら酒に酔って気づきを得る話など、多種多様な絵柄と作風が並んだ。同じ展示を見て同じ作品に向き合っても、人によって解釈や思いつく物語は様々だ。
「ストーリーを自分で作ると自分のものになる。作品を自分のものにして持ち帰ってほしかった」という平子の狙い通り、そこでは鑑賞者が自らの想像力を働かせて作品世界と結びつく有機的(オーガニック)な対話が実現されていた。
白紙の冊子に向き合う参加者たちの姿を見ていると、絵本を描き始めた瞬間から、受け手は単なる鑑賞者の枠を越えて「もうひとりの作者」になっているのではないか、と思えてくる。実際に物語を形にするワークショップは、そうした作者の立場に立てる分かりやすい方法だったと言えるだろう。
普段のアート鑑賞でそこまですることは少ないかもしれないが、今回の展示をはじめ様々な作品から受け取った印象を、自分の中でじっくり育てていくような思考を持つことは、アートと向き合う上でとても大切なことなのかもしれない。







