死滅する海に何ができるのか。料理人は率先してサステナブルフードに取り組むべきと「ルレ・エ・シャトー」が改めて警鐘

2019/11/02
マガジンサミット編集部

今、私たちが日本の食卓やレストランで食べている魚、その7割が輸入によるものだと知っていますか? 日本の海はかつて世界でも屈指の豊かな漁場でした。しかし、その海が死滅の危機に瀕しています。

日本の漁獲量は1984年をピークに、1988年頃から1997年頃にかけて急激に減少しています。その理由として、各国において排他的経済水域が設定されたこと、気候による漁場環境の悪化、大規模商業漁業による乱獲などが挙げられます。

しかし、海洋資源の著しい減少は日本海域に限られたことではなく、今や世界全海域が死滅の危機に瀕しています。このままでは食文化はおろか、地球の生態系が崩れ人類の存続にも影響を与えかねません。この危機に立ちあがったのが、世界の一流のホテル、レストランで構成される非営利会員組織「ルレ・エ・シャトー」(本部 フランス パリ)です。

先日、「ルレ・エ・シャトー」の日本支部では、温暖化の影響や資源の乱獲などにより憂慮すべき状態にある海洋資源を守るマニフェスト“Vision for the Sea(ヴィジョン・フォー・ザ・シー)“の説明発表会を開催。ルレ・エ・シャトーのオリビエ・ローランジェ副会長、神戸北野ホテルの総支配人・総料理長 山口 浩氏、そして「Seafood Legacy」のCEO 花岡 和佳男氏らが登壇しマニフェストとそれに伴う活動内容を発表しました。

海の生態系を守るために、料理人ができること

1954年に発足したルレ・エ・シャトーは、世界中の厳選された580のホテルとレストランが加盟しています。うち400ちかいレストランが3ツ星を獲得しており、日本で加盟しているホテル・旅館は11棟、レストランは8店舗になります。(2019年10月現在)

副会長であるオリビエ・ローランジェ氏は、「人間がもたらした汚染、気候の変化、乱獲により、あらゆる海域で魚種が減り生態系を維持できずに海の資源が砂漠化している。もっとも問題なのは、海で起こっていることは目に見え辛く、我々は海底深くの変化を感じることができないことだ」と訴え、ルレ・エ・シャトーの会員による海洋資源保護のための下記、6つの重要施策を発表しました。

持続可能性を追求する責任ある漁業及び養殖業を応援します

小規模・零細の沿岸漁業者及び養殖業者を支えます。

調和や個性を尊重し、問題の根本的解決を目指します。

海の恵みの無駄遣いを徹底的に削減します。

漁業者及び養殖業者の努力をお客様に伝えます。

継続的に成長します。

オリビエ・ローランジェ氏は、「料理人は、野菜を選ぶときに産地や有機農業であるかを意識的に調べ、肉ならば質や血統をとても大切にする。しかし魚に関してはコストと新鮮であるか否かを確認するだけだ」と話し、サステナブル(持続可能)な漁業を保つために、その魚種にストックがあるのか、産卵期か否か、魚は旬であるかを重視し、海のエコシステムを壊すような乱獲業者からは買わない、そしてレストランで提供する魚種を多様化することなどを宣言しました。

ルレ・エ・シャトーに加盟するすべての店舗には、上記のような海の食材をどのように扱うかのガイドラインを配布しており、お客様には絶滅危惧されている魚を提供しないことや、その地域では口にすることのなかった(充分にストックのある)魚を楽しんでいだだくために新しいレシピを開発するなど、料理人が積極的にこの問題に取り組もうとしています。

実際にルレ・エ・シャトーでは、2009年に絶滅危機にある大西洋・地中海のマグロをメニューから外す要請を加盟店へむけ行う、また、2017年にはフランスで絶滅危惧にあるスズキを産卵期にあたる1月~3月の期間メニューにいれないと決めるなど、さまざまな活動をしており、結果、その海域の魚種が増える成果をあげています。

水産エコラベルのついた商品とは?

さて、私たち消費者はこの問題について、どのようなアクションを起こしたら良いのでしょうか。一つには、海洋資源の持続的利用や環境配慮への取組を証明する“水産エコラベル”のある商品を積極的に購入することがあげられます。

サステナブル・シーフード・コンサルティングを提供する「Seafood Legacy」の花岡 和佳男CEOは、東京五輪の調達方針にも取り入れられた水産エコラベルのベンチマークとなる国際パートナーシップGSSI(Global Sustainable Seafood Initiative)が認定する「MSC」や「ASC」などの水産エコラベルを紹介し、その有効性を説明しました。

水産資源と環境に配慮した漁業で獲られた天然の水産物である証「MSC」や、環境と社会への影響を最小限にして育てられた養殖の水産物の証「ASC」は、FAO(国際連合食糧農業機関)が1995年に発行した「責任のある漁業のための行動規範」と2005年に発行した「水産物エコラベルのガイドライン」を基準に定められています。

これら「MSC」「ASC」などのサステナブルシーフード調達目標の国内事例として、イオングループが2020年までにグループ内のスーパーマーケットでMSC/ASCのCoC認証の100%取得を目指し、また主要な全魚種で持続可能な裏付けのあるプライベートブランドを提供したいとしています。

日本生活協同組合連合会では、2020年までに水産部門のコープ商品におけるMSC/ASC認証の商品の供給金額構成比を20%以上に引き上げること。また、セブン&アイHLDGSでは、2030年までに、オリジナル商品で使用する食品原材料は持続可能性が担保された材料50%使用し、さらに2050年までに100%使用を目標に掲げています。

日本はもっとイニシアチブをとるべきである

日本の主要漁業資源のうちストックがある魚は10%しかおらず、特にマグロ、タラ、サメ、カジキなどの大型魚は漁業が巨大産業化するなかで激減。さらに、獲られた魚の4割くらいが利用されぬまま廃棄されており、かつて豊かな漁場であった日本の資源状態は著しく悪化しており、2030年までに水産業が最も衰退するのは日本だと言われています。

花岡CEOによると、世界の大規模漁船のなかにはジャンボジェット機が14機ほど飛べてしまう大きな底引き網を扱う船もあり、このような巨大網と高性能の魚群探知機により獲る必要のない魚も無差別に根こそぎ浚われてしまっているそうです。

日本では漁獲量が定められていますが、それぞれの漁船に反映されているわけではなく、船同士が限られた枠のなかで量を争わなければならず、充分に育っていない魚も獲らざるおえない状態です。今や日本で獲られている太平洋マグロもカツオほどの大きさしかなく、当然、産卵する前の小さい魚を獲ってしまえば、以降、魚が増えることはありません。

オリビエ・ローランジェ氏は「海に対する深い知恵や経験、養殖の技術、そしてそれらを美味しく調理する方法を知っている日本は、もっと問題に対してイニシアチブをとり世界に先立つ本来の意味での先進国になるべきだ」と訴えました。

世界的有名シェフ4名によるデモンストレーション

記者発表会後には大阪観光局主催「食の都・大阪 デリシャス・ジャーニーズ2019 Partnerships with RELAIS & CHÂTEAUX」の一環として、ルレ・エ・シャトーのシェフによりクッキングデモンストレーションが開催されました。

デモンストレーションでは、山口浩氏(ルレ・エ・シャトー日本&韓国 副支部長 兼 世界食協議会員 神戸北野ホテル総支配人・総料理長)をはじめ、アルノー・ファイ氏(シャトー・ド・ラ・シェーブル・ドール/フランス・エズ)、ヴィッキー・ラウ氏(テイト・ダイニング・ルーム&バー/香港)、カイル・コノートン氏(シングル・スレッド・ファーム‐レストラン‐イン/アメリカ・カルフォルニア)ら4名が料理を披露。

シェフらは日本の生産者を巡りレシピに相応しい素材を調達し、素材がもっとも引きたつオリジナリティあふれる方法で調理。それら調理中のナビゲーターを山口浩シェフが務め、繰り出される技やレシピについて解説しました。

山口浩シェフによる「北海道産MSC認証帆立貝柱のオーブン焼き 小野菜と酸味の利いた白ワインソース」

アルノー・ファイ シェフによる「和歌山県那智勝浦町FIP認証ビンチョウマグロのグリエ、松茸ポワレ、黒カルダモン風味のしいたけのエキス」。

リッツ・ホテル(パリ)のレストラン「エスパドン」の料理長時代にミシュランの2つ星を得て、現在は南仏のエズにある有名な「ホテル・シェーヴル・ドール」に務めているアルノー・ファイ シェフ。

デモンストレーションでは、フレッシュなエキスをとるために乾燥しいたけではなく生しいたけを使用。より旨味を引き出すために、フライパンにひいたオイルに塩を振りかけるテクニックを披露。日本で出汁にこだわるように、フランスではオイルに気を使います。

ヴィッキー・ラウ シェフによる「泉州だこのタルトレット」。

前職がデザイナーだったヴィッキー・ラウ シェフのこだわりは、素材・味・見た目ともに美しい料理。デモンストレーションでは、柔らかい泉州だこ(水だこ)を60~70度でじっくり煮込み、極薄で繊細なタルト生地のうえに華やかに飾りつけました。

2015年に「ヴーヴ・クリコ アジアの最優秀女性シェフ」として表彰されるなど、伝統を重んじる中国(香港)で最も認められている女性シェフならではの、中国料理とフランス料理を掛け合わせた繊細で美しい一皿は注目の的です。

カイル・コノートン シェフによる「大阪産(もん)しま鯵のグリーンティーと紫蘇塩風ヤング大根とバチェローズバトンフラワー」。

カイル・コノートン シェフは、ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ内にあるミシュラン2つ星のレストラン「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で経験を積み、英国のミシュラン3ッ星レストラン「ザ・ファット・ダッグ」でヘッドシェフを努めた後、2016年にカリフォルニア州にて「シングル・スレッド」を立ち上げました。

広大な敷地をもつ「シングル・スレッド」は、畑と牧場、宿泊施設などを兼ね備えており、素材は自身の畑や牧場のものを使用しています。今回のバチェローズバトンフラワーパウダーはコノートン シェフの菜園で採れた花をドライにしたものです。

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