玉川学園の丘に揺れる「竹あかり」が灯した学びと循環のウインタークリスマスイルミネーション

2025/12/11
マガジンサミット編集部

玉川大学・玉川学園の冬を彩る「2025 Winter Illumination」が、11月28日よりスタートした。正門のツリー点灯式、第3章「香り×音楽×プロジェクションマッピングとともに、今年から一連のウインタークリスマスイルミネーションの第2章として位置づけられたのが、12月1日から3日まで開催された「竹あかり・ゆらぎの丘」点灯イベントだ。

会場は、玉川大学大学教育学部棟2014周辺の芝生斜面。放置竹林問題と光害という2つの環境課題に向き合いながら、大学の竹林で伐採された竹を生かし、約180本の竹あかりがゆるやかな丘を照らす。学内で手づくりした和ろうそくの炎の「ゆらぎ」を赤外線カメラで読み取り、そのデータを元にLEDを制御する仕掛けを構築し、心地のよいリズムでの点灯を実現した。
放置竹林と光害に向き合う竹あかり

プロジェクトを率いる玉川大学学術研究所の田中敬一特別研究員は、そもそもの出発点をこう語る。「学内にも竹林があり、定期的に伐採しているが、これまでは産業廃棄物として捨てるしかなかった。放置竹林の問題に向き合うのであれば、伐採した竹を何かに生かせないかと考えたのが始まりだ」。

写真撮影協力:玉クルーズ※

竹は成長が早くCO₂の吸収効率も高い一方、放置すると周囲の樹木の成長を阻害し、生態系の多様性を奪ってしまう。さらに根が浅く斜面を支えきれず、土砂災害の要因にもなりうる。日本各地で問題となっている「放置竹林問題」を、自分たちの足元から考えようという意図が「竹あかり」の背後にある。

もう一つのテーマが「光害」だ。昨年の竹あかりは、竹を斜めにカットし、内側の白い面に光を当てて見せる一般的なスタイルだったという。しかし、その形では光が夜空へ抜けてしまい、夜間でも空や周囲を不要に明るくしてしまう。そこで、今回は竹の側面を切り開き、光源を前方に露出する形に改良し、遠方まで明かりが届くようにデザインを一新した。田中先生は「側面に窓を開けて光を見せることで、同じ消費電力でも明るさを感じやすくしている。環境に配慮しながら、遠くから見ても美しい光にしたかった」と思いを語った。実際、会場となる丘は、小田急線・玉川学園前駅のホームや駅前の歩道橋の延長線上にある。駅から見上げると、冬の夜空に沿って竹あかりの帯が浮かび上がり、キャンパスの内側だけで完結していた昨年から「まち全体の光景」に開かれたイルミネーションへと進化している。

「伐る・作る・灯す・焼く」竹が循環するプロセス

このイルミネーションは、単なる展示ではなく「循環型資源利用」の実践の場でもある。10月、工学部の授業「労作 木工」の一環として、学生たちが学内の竹林で伐採された竹を輪切りにし、素材づくりを担当した。玉川学園総務部次長の北川昭一氏はこう説明する。「伐採そのものは植木屋さんの協力を得ているが、その後の切断作業は工学部の学生が担っている。直径十数センチの部分しか今回の竹あかりには使えないが、できるだけ上の細い部分も輪切りにして装飾に活用し、捨てる材を減らすよう工夫した」。

12月1日から3日の夜、そうして生まれた竹あかりが「ゆらぎの丘」に並ぶ。イベントが終わると、竹筒はすぐに撤収され、町田市芹ヶ谷公園の「Future Park Lab」でのワークショップに運ばれる。そこでバイオ炭として焼成され、CO₂を長期にわたり土壌に固定する資源へと姿を変える。さらに芸術学部アート・デザイン学科では、その竹灰を陶芸作品の釉薬の素材として活用する予定だ。伐採をして加工、点灯、その後は炭化し土壌やアート作品へ。竹は廃棄されることなく、学内外をまたぎながら循環していく。そのプロセスの要所で、工学部・芸術学部・農学部の学生がリレー形式で関わっている点も、このプロジェクトならではの特徴である。

町田市「まちだの木」とつながる、学びのウインタークリスマスイルミネーション

こうした取り組みは、Tamagawa Mokurin Projectと町田市の「まちだの木」活用プロジェクトとの連携のもとで進められている。2025年8月、玉川学園と町田市は、市内の樹木や竹資源を循環的に活用するための事業連携協定を締結した。昨年は、学生や職員が市内の放置竹林の伐採作業に参加し、その竹を学内のイルミネーションに活用した。今年はスケジュールの都合で学外での伐採には入れなかったものの、授業の冒頭に町田市経済観光部農業振興課の牛腸哲史担当課長担当者を招き「東京・町田発 新しい里山づくり ~放置竹林問題の解決に向けて~」と題したレクチャーを受けてから作業に臨んだという。

田中先生は「単に竹を切って飾るだけでなく、その背景にある地域の課題を知ったうえで手を動かすことが大事だ」と話す。キャンパスのイルミネーションでありながら、地域の森や公園、そして里山の将来とつながる「学びのウインタークリスマスイルミネーション」としての性格が強まっている。

写真撮影協力:玉クルーズ※

学生がつくる「癒しの丘」制作現場で育つまなざし

3年生の持田貴大さんは、昨年に引き続き竹あかりの制作に参加。「前回は、学園内の奥まった場所での展示だったが、今回は駅や街からも見える場所に移った。木と木の間からすべての竹が見えるように、田中先生と一緒に位置を確認しながら配置を決めた。斜面に並べる作業も大変だったが、そのぶんやりがいがあった」と制作を振り返った。

初参加の2年生・黒田耀介さんは、先輩の持田さんから刺激を受けて同プロジェクトに加わった。実際に穴あけやカットを経験する中で「ツルツルしているからドリルが滑ってしまう」「節の部分をまっすぐ切るのが難しい」と初めて扱う竹の固さに苦戦したというが、「切るときに粉がたくさん出るので、それを固めて何かに使えないか」と新たなアイデアも生まれていた。続けて、完成した会場を前に「お客さんから『きれい』『癒やされる』と言ってもらえて、達成感がすごい」と笑顔を見せた。

大学院1年の佐藤小夜子さんは、最も長く同プロジェクトに携わってきた。今回の竹あかりについては「去年よりも光の面積を増やし、輪切りの装飾を加えたことで、全体として華やかな雰囲気になった」と充実した表情。2つの環境問題に対しては「環境問題は、どうしても義務感から語られがちで、最初の一歩を踏み出しにくいテーマでもあると思う。だからこそ、魅力的な演出やアートを通じてまず興味を持ってもらい、そのあとで『実はこういう問題があるんです』と伝えるアプローチに可能性を感じている。この竹あかりも、その一例になればうれしい」と真剣な眼差しで述べた。

「また来年も」キャンパスから広がる、竹あかりの未来像

会場には、学内の教職員や学生だけでなく、地域の親子連れや通勤・通学帰りにふらりと立ち寄る人の姿も多い。持田さんは「『とてもきれいだった』『癒やされた』『また来年もやってほしい』という声をもらえるのが励みになる」と手応えを感じていた。今年も学内での展示に留まったが、佐藤さんは「市の公園や、外部の会場でも発表できる機会があればうれしい」と展望を口にし、「ウィンターイルミネーションといえば、ツリーや電飾が定番だが、竹の灯籠を並べる以外にも、竹という素材を生かした新しいデザインに挑戦してみたい」と、次のアイデアにも思いを巡らせていた。

田中先生は、今回の取り組みをこう総括する。「このイルミネーションは、学生が直接手を動かしながら、放置竹林や光害といった環境課題を自分ごととして考えるための場でもある。竹を切って、加工して、灯りとして楽しんでもらい、終わったら炭にして森に返す。その一連の循環を体験することで、目に見えない環境のつながりを感じてもらえたらうれしい」

竹の筒からこぼれるやわらかな光は、スクリーンに映し出された和ろうそくの炎と呼応しながら、冬の夜のキャンパスに静かなリズムを刻んでいる。「竹あかり・ゆらぎの丘」は、クリスマスシーズンのイルミネーションであると同時に、学生と地域が未来の環境をともに考えるための学びの丘でもあった。

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