米メジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が肘を故障し、一時は手術もささやかれましたが、約一ヶ月後、ひとまず打者での復帰を果たしました。投球ができるまでにはまだ時間がかかるとのことです。
そこで、肘の治療方法について調べてみたところ、最新の治療方法に目が留まりました。まず、現在有効的な治療法をおさらいします。
【PRP(プレートレット・リッチ・プラズマ)療法】
大谷翔平や田中将大が去年行ったのはこれです。
肘の側副靱帯に損傷が認められた際、自身から採取した血液から血小板を取り出して患部に注射することで損傷箇所の細胞組織の修復や再生を図る、という方法です。注射して経過を見て、患部がうまく治癒できていれば成功。個人差はあっても順調なら数ヶ月で球を投げることが可能です。リスクが少ない治療方法といっていいでしょう。現在、日本の多くの医療機関で治療を受けることが可能です。
【トミー・ジョン手術】
肘の側副靱帯が断裂するなど重傷の場合に行います。松坂大輔、藤川球児、ダルビッシュ有などが受けた、最後の拠り所とも言える治療方法です。
痛めた肘の靱帯を切除し、反対側の腕や足などから健康な腱を取り出して肘に移植、患部の修復を図るという方法です。一般的には回復までに1年以上かかるとされますが、個人差も大きく、仮に球を投げられるようになっても故障前のレベルに戻るには更に年月がかかると言われます。うまく復活できる人も、できないで終わる人もいるのでかなりリスクが伴います。
現在、野球選手が肘の側副靱帯の損傷や断裂を負った場合、最後の治療手段はトミー・ジョン手術とされています。そこで、これに変わる治療方法はないのか? と思って調べてみたら、2016年に実績が発表された新しい手術が注目を浴びているとのこと。耳が早い野球ファンならすでに聞いたことがあるかもしれません。
【セス・メイネス手術】
米国アラバマ州のスポーツドクター、ジェフリー・デュガス医師らが開発し、2016年8月に初めてメジャーリーガーとして手術を受けたカージナルスのセス・メイネス投手にちなみ「セス・メイネス手術」と呼ばれるようになりました。復帰までは早ければ6~7ヶ月と、トミー・ジョン手術より半年早くなります。しかもリハビリ期間が短くてすむ報告もされています。
手術は、まず損傷・断裂した内側側副靱帯を縫い合わせて、そこへ、
人工テープ(ウルトラ・コラーゲン・コーテッド・テープ)
人工ビス(ピーク・コルクスクリューアンカー)
という化学繊維でできた人工靱帯で繋げて、留めて、などして補強。修復させるという方法。
私見の感覚ですけど、木を植え替えると地面に根付いて強くなるまでに時間がかかりますよね、それがトミー・ジョン手術だとすれば、折れた木に添え木などをして馴染ませて直すのがセス・メイネス手術、という感じでしょうか。
セス・メイネス手術は、‘13年に初めて実地され、’16年の経過発表では32人のアマチュア選手が手術を受け、2年連続して高いパフォーマンスを発揮したと報告しています。この結果を受け、メジャーでは今、復帰まで時間のかかるトミー・ジョン手術ではなく、セス・メイネス手術を選択する選手が増えているといいます。おそらく実績が増えればトミー・ジョン手術を上回る治療数になるでしょう。
日本でも受けられる
このセス・メイネス手術、日本では受けられないのか? 調べてみたところすでに行われていました。検索でヒットしたのは、福岡県北九州市にある産業医科大学若松病院・整形外科です。こちらには、人工肘関節のスペシャリストと言われる内田宗志医師という権威がいらっしゃるそうです。
内田医師の肘手術を受けたのは、東亜大学の吉永雅典投手。手術を受けたのは今年2月ですが、なんと7月中には投球を再開できる見込みとのこと。完全復帰の希望が早く持てます。
日本でも、セス・メイネス手術が肘治療の主流になる時代は早く訪れるかもしれません。
メジャーで肘故障、一つの考察
最後に独り言のコラムを。個人の考察なのでご了承ください。
メジャーリーグへ移籍した日本人投手は、肘を故障するケースがとても多いですよね。しかも移籍から2,3年ほどで発症させ、長期離脱してしまうほど重傷というケース。トミー・ジョン手術を受けて1年以上投げられなくなった投手は多くいます。また、田中将大、そして大谷翔平など、なんとか手術を免れPRP療法を受ける選手もいます。いずれにしろ重い故障です。この傾向の原因に関しては様々な意見が飛び交っています。
例えば、元メジャーリーガー小宮山悟さんは・・・
・子どもの頃の投げ過ぎ
・変化球(特にスライダー)の多投
・正しくない投球フォーム
・馬革で滑りやすくサイズも重さも大きいメジャー公式球
・「中4日先発5人」によるMLBのローテーション
このような原因が密接に絡み合っているが、ただし原因は人それぞれ、と言っています。
そしてここからは私、個人の考察です。
メジャーリーグの日本人投手に重度の肘故障がわかると、米国の専門家などは、日本は子供の頃からたくさん投げさせ過ぎだ、球数を制限させないからだと、日本野球の球数の多さを一番に挙げて問題視します。米国がそう言うから日本でもその風潮が広がり、おそらく20年ほど前から指導者は、かなり制限させる指導はしていると思います。
米国さんごもっとも、過度な投げ込みは抑えるべきです。
でも、日本人メジャーリーガーの故障に関しては「本当に投げすぎが原因か!?」と思い始めてきたんです。というのも、いくら何でも故障する人数が多く、それに発症が早くないですか? 例えば、ダルビッシュ有は4年目にトミー・ジョン手術、田中将大は1年目にPRP療法を受けています。二人は、日本にいた頃はそんなに深刻な肘の故障をしていません。
――――― ここで疑問です。
米国が声を荒げる“投げすぎ”が原因なら、日本で同じ世代の主力投手も次々に故障して同じ治療を受け、長期離脱するケースが多いと思うのです。でも、そんなに重傷の肘故障者は続出していますか?日本よりメジャーに渡った投手の肘の故障率、しかも重症度が高いと感じませんか。
――――― だとすると、おかしくないですか?
矛盾しているのは、米国式に従い、故障の最大の原因と目される投げる球数を、キャンプで制限、シーズン中の練習でも制限、試合でも制限しているのにもかかわらず、故障者が多いこと。つまり、私はむしろ、米国の方法が間違っているか、あるいは日本人にマッチしていない、と疑っています。
“投げ過ぎ”もダメですけど、“投げ込み”で鍛えないから逆に重い故障を発症させてしまうのではないでしょうか。米国のやり方が万人に共通で正しいわけがありません。選手に合ったやり方を優先させるべきです。
――――― さらにもうひとつ矛盾点があります。それは中4日の先発ローテーションです。
ダルビッシュ有は「中4日は絶対に短い。投球数はほとんど関係ない。120球、140球投げても、中6日あれば靭帯の炎症も全部クリーンにとれる」と言っています。
球数を制限させるメジャーリーグですが、実は中4日で100球は逆に投手の体を酷使させます。こんな計算をしてみました。MLBの1シーズンは162試合です。開幕試合に先発して中4日のローテーションなら41試合登板で、1試合100球投げると年間4100球になります。
これがもし中5日なら、32試合登板で100球投げると年間3200球です。たとえば1試合120球投げたとしても3840球です。肘肩の負担を気づかうなら登板間隔を見直すべきです。
日本のプロ野球の先発投手は、中5日か6日のローテーションが普通で疲労を軽減させています。メジャーは試合数が多いから先発は中4日で回して球数を抑えるというのは逆に愚策で、先発要員を一人増やし中5日で回した方が、圧倒的に投手の疲労が軽く好パフォーマンスが期待できるはずです。
先発が長い回を投げられれば、リリーフ陣の負担が減ります。余談ですけど、逆に毎日のように登板するリリーフ、昔は長谷川滋利、去年までなら上原浩治などのほうが、肩肘が鍛えられて重傷の故障が少なかったのかもしれません。
メジャーのどこかのチームが先発中5日制を用いたら劇的に投手の成績が上がるかも。誰か、日本人投手が球団との契約段階で、「キャンプでは日本式で投げ込みさせて欲しい」「先発は中5日を基本に」「見方攻撃中にベンチ前で肩慣らしOK」など、日本で続けてきた方法でやらせてくれと言って試して欲しいです。それでも大きな故障したなら日本式が間違っている証明がされることになるでしょう。
また、これも余談かもしれませんが、日本のプロ野球でプレイする外国人投手に故障が少ないのはどうしてでしょう?
やはりプロになるまで投げる数が少なかったからでしょうか。仮にそうだとして、むしろ日本の練習方法や中5日・6日のローテが理にかなっているからかもしれません。更に、日本のキャンプの投げ込み練習で一年怪我なく続けられる肩肘が作られているのかもしれませんよ。そういう研究データは取っていないのでしょうか?
米国は頭ごなしに日本野球のたくさん投げるスタイルを否定しますが、日本だって今の時代、アマチュアでは過度な投げ込みをさせないよう指導されています。それでも肘を故障してしまう人はします。
球数制限にうるさいメジャーリーグ、マイナーリーグでも毎年10人ほどはトミー・ジョン手術を受けているそうです。これもおかしな話しです。あまり投げなくてもひどい故障はするんですよね。個人差です。
個人差なら、メジャーに渡った日本人選手は、ある程度は今までの経験に裏打ちした練習を行った方が重度の故障ケースは減るはず。これが私の結論です。
私は、ただの野球ファンでしかないので、膨大なデータは持っていませんし、記者でも裏事情通でもありません。エンゼルスは大谷選手にそもそも肘の故障が有り得ることを了承しての契約だったと聞きましたが、それにしても一年目の大きな故障だったので、たまらず思っていたことを書かせていただきました。失礼しました。