「ロンドン&パートナーズ」CEO ローラ・シトロンに聞く。コロナ禍以降「ウエスト・エンド」のビズネストレンドはどう変化したか?

2022/07/29
マガジンサミット編集部

covid-19の世界的パンデミックは都市の姿を様変わりさせた。とりわけ観光都市として国内外に大きな影響力をもっていたエリアは、コロナ禍以降、変革をせまられている。

世界でもっとも有名な商業地区のひとつであるイギリスの首都ロンドンにおける「ウエスト・エンド」も例外ではなく、ロックダウンにより消費者のオンライン購買への移行を加速させ、企業は新たな消費者行動に対応せざる負えなくなった。

しかし、一方でこの状況は欧州進出を狙う企業やブランド、投資家にとってチャンスともいえる。

ロンドン有数のビジネスとデスティネーションエージェンシーである「London&Partners(ロンドン&パートナーズ)」のCEOであるローラ・シトロン氏は、「ウエスト・エンドは今、街をエキサイティングに変えてくれる新しい日本ブランドの登場を待っている」と話す。

写真)Laura Citron - CEO London & Partners

コロナ禍以降のロンドン

ロンドンの「ウエスト・エンド」といえば、イギリス最大の商業・歓楽地区であり、さまざまな歴史や文化の発祥の地。映画、小説、演劇、音楽など誰もが知る作品の舞台となってきたエリアだ。

コヴェント・ガーデン、ソーホー、ウェストミンスター、セント・ジェームズ、オックスフォード・ストリート、シャフツベリー・アベニュー、リージェント・ストリート、ピカデリー …

ざっと思いつくままに書いてみても、これだけの地区や通り名が浮かぶ。当然、その知名度と比例して賃料も高く企業にとって理想的な物件探しは困難だった。

しかしパンデミック後の今、コロナ禍で空いた物件や家賃のディスカウントなどが影響し条件の良い物件を選びやすいうえに、シトロン氏によると、ロンドンにおいてビジネスの規制が緩和され商売がしやすくなっているという。

© visitlondon.com Antoine Buchet

例えば、以前は飲食店において屋外席を設けるためにはライセンスが必要だったが、コロナ禍をへて規制が緩和され、多くの場所で屋外での食事ができるようになった。

ボンドストリートにある「ラルフ ローレン」では、パンデミック時に店舗と並行してカフェエリアを導入し好評を得た。そこで同社は地元自治体のウェストミンスター市議会と協力し、このカフェを歩道にまで広げ屋外席を増設、今ではこのビルの中心的な存在になるほどの盛況ぶりだ。

また、不動産物件を商業目的で使用する場合、カテゴリー用途(リテール物件は、小売、オフィス、飲食、パブやバー、テイクアウトの5つ)に順ずる必要があったが、2020年にこれらを1つに統合する方針が打ち出されたことで、より柔軟にビジネスを行えるようになった。

2021年にリージェント・ストリートに最大の旗艦店をオープンさせたシューズブランド「オニツカタイガー」(アシックス)は、1階にウェアとシューズのコレクションを、地下1階には、ロンドンのクリエイターやアーティストの作品を展示するギャラリースペースを運営。この新しい方針を上手に活かした店舗構成となっている。

求められている商品やサービスとは?

シトロン氏は「オニツカタイガー」の新店舗について、「ブランドとロンドンのカルチャーが繋がる体験型ギャラリーが顧客の入店を誘い、企業が創造性を発揮して繁栄することを可能にしている」とし、さらに今、ウエスト・エンドに必要とされているのは、このような、新しいエクスペリエンスを提供してくれる企業や商品、サービスだと話す。

数多くのファッションブランドが進出している伝統的な“国民のハイストリート”として名高いオックスフォード・ストリートでは、最近、体験型レジャー施設の誘致やサービスに重点を置きはじめており、イギリスで人気の「Boom Battle Bar(ブームバトルバー)」-日本でいうところの「ラウンドワン」のような複合レジャー施設-の導入が予定されるそうだ。

また、2022年秋には、オックスフォード・ストリート、メイフェア、ハイドパークの合流点に位置する新開発のマーブルアーチプレイス内に、ロンドン初、イギリス最大のデジタルアート体験施設「Frameless(フレームレス)」のオープンが控えている。

このような没入感のある複合的な小売体験がウエスト・エンドに新しい顧客を引き寄せ、今、消費者に刺激的なサービスを提供し続けている。

シトロン氏は「それは、むしろ著名なブランドよりも、個性のある新しい価値を提供してくれるユニークなサービスや商品であり、オンラインで商品を購入するのが当たり前の時代に、オフライン店舗ならではのスペシャルな体験を叶えてくれる店である。日本発ならば、日本食やファッション以外に「カラオケ」や「eゲーム」などがエキサイティングだ」と提案する。

さらにシトロン氏は、「事前のeコマースでの成功が欠かせない」とアドバイスする。

2022年にリージェント・ストリートに新店舗をオープンさせた「ユニクロ」および「セオリー」は、オンラインショップとオフラインショップの連携やプロモーションのバランスが良く、オープン時には、実店舗に消費者が足を運びたくなるよう準備ができていた。まさにコロナ禍後のアパレル店のモデルケースであり、オンライン上で、実店舗ならでは価値をどれだけアピールできるかが成功のカギになってくるのだ。

優秀な現地パートナーの存在

さて、実際にウエスト・エンドに出店を検討している企業が「ロンドン&パートナーズ」に協力を頼むと、どのような手助けをしてもらえるだろうか。ロンドンで商業用の不動産を借りる又は購入するためには、優秀な現地パートナーの存在が欠かせない。

シトロン氏は、「私たちロンドン&パートナーズは、あらゆるサポートを無料でおこない、しかも秘密裡に迅速に行う」と約束してくれた。

それは、不動産の紹介だけにとどまらず、出店に必要な市場データを提供し、依頼主と一緒に街を歩き、目指すビジネスに最も適した場所やチャンスを探る。そして、不動産物件のマッチングや家主との交渉、銀行、求人、税金、通関の用意など、あらゆる面においてサポートし「ビジネスが成功するまで伴走する用意がある」と。

ひとくちにウエスト・エンドといっても、地区ごとに個性やコンセプトがあり客層やトレンドも違うし流行は常に変化する。その地域の“最新”を肌で感じることが大切だろう。

ロンドンはBrexit後も欧州企業を惹きつけているだけでなく、世界中の企業から関心が高い。2021年の外国直接投資においては、世界のどの都市よりも多くの新規投資案件を誘致しトップとなった。

この良好な関係はアジア企業との間でも続いており、2016年~2021年の間に200以上のプロジェクトがロンドンに移ってきているそうだ。日本からは特に小売業の進出がめざましく、ロンドンへの小売業の進出国のうち、アジア市場では日本が唯一、トップ10入りを果たしているそうだ。

ちなみにロンドンが求めているのは、飲食や小売業だけではない。「ロンドン&パートナーズ」が担当した日系企業は、技術、化学、金融、フィンテック、ゲーム関連など多岐にわたり、過去には、富士通、伊藤忠、キャノン、テレハウス、日立、NTT、丸紅、NEC、武田、三菱、ナブテスコなどがクライアントとして名を連ねる。

シトロン氏は、「今、ロンドンは観光客が戻りつつある。しかし世界は大きく変わった。新たなイノベーションを呼び込むためにも、魅力的な日系企業が、私たちがまだ知らない新しい体験を提供してくれることを期待している」と話し、「日本の企業のなかには、魅力的で多くの強みがある商品やサービスがあるのに、実際に進出しているブランドは少ない。私たちはそれを変えたいと考えており、ロンドンのウエスト・エンドに多くの日本企業を迎え入れることを楽しみにしている」と期待を込めている。

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