新型コロナウイルスの影響によって、さまざまな業界に大きな変化が起きています。特に、大きな変革が起きているというのが美容皮膚科をはじめとした美容医療業界。
今回は、医療法人社団清優会の理事長である花房火月先生にインタビューし、コロナショック後の業界の変化やを科学的根拠のない治療法について専門家の立場からお話をしていただきました。
医療法人社団清優会理事長・花房火月先生インタビュー
コロナショック後、花房先生のクリニックではどのような変化がありましたでしょうか。
「まずは感染防止対策の徹底ですね。ビニールのシートで受付とお客様を隔離したり、待合の椅子を半分閉鎖してソーシャルディスタンスを確保したり、消毒を1時間に1回したり…あと、医師と患者さんの椅子も離して距離を保つようにしました。そのあたりの対策は完璧にやっています」
経営的には、コロナショックの影響はあったのでしょうか。
「以前は、同窓会の前にきれいになりたいとか、息子の結婚式があるからとか、そういったライトなニーズが多かったのですが、そういう集まり自体が減ったのでライトな患者さんの数が減りました。今後も、たとえばピーリングやレーザーフェイシャルとか、そういったライトな治療のために来院される方は少なくなっていくと思われます」
それでは来院される方の数は減ったのでしょうか?
「確かに来院される患者様の数自体は減ったのですが、代わりに、ダウンタイムが必要になるような大きな手術を希望される方が増えました。ダウンタイムというのは、手術跡などが消えて元通りになるまでの期間と考えてください。最近多いのは、眼瞼下垂(がんけんかすい)の患者さんですね。あとは皮膚腫瘍を取る手術や、シミ取りレーザーなど。新型コロナの影響で人と会う機会が減ったことで、患者さんは逆に『今がチャンス』と捉えて手術に踏み切る方が多いようです」
業界的にはどのような影響があったのでしょうか。
「大きい病院は受け入れ体制が弱くなりました。皮膚科や形成外科の手術は『不要不急』とされて、大病院はオペをしなくなってしまったんです。個人的には、随分と無責任な話だなと思いました」
「不要不急」と扱われてしまうことに対してはどのようにお考えでしょうか。
「正直、そう思われてもやむなしという部分もあると思います。『不要不急』とされてしまうのは、大病院の内科医や外科医と比べて、日本の皮膚科医、形成外科医の地位が低いことが大きな原因。それは、自分たちのやってきたことの積み重ねの結果なので、自分たちで変えていかないといけないと思っています」
なぜ日本の皮膚科医や形成外科医の地位が低いのでしょうか。
「エビデンスのない治療法をお金のためにやっている怪しげなクリニックって山ほどあるんですよね。それがSNSなどで話題になってしまうと、美容皮膚科や美容外科クリニックはすべて怪しいと思われてしまいます。
そういうものがあるうちは、なかなか我々の地位は向上しないでしょう。より患者さんに貢献するようにして、それを数字として出せるようにならないと世間の評価は変わらないんじゃないですかね。ただ、コロナショックによって怪しげなクリニックはかなり淘汰されていて、その傾向は今後も続くと思っております」
怪しげな治療法やクリニックを根絶するにはどうしたらいいとお考えでしょうか。
「もしそういう医学的根拠のない治療をアメリカでやったら、必ずと言っていいほど集団訴訟問題になるわけです。しかし、日本だとホームページの記述を消したり、ただ『ごめんなさい』と謝ったりするだけで済んでしまう。そうした医学的根拠のない治療がはびこらないように、ちゃんと日本でも法規制をしてもらえたらと思いますね」
他にも美容クリニック業界の問題点はありますでしょうか。
「最近は若年層の女性の間で美容整形ブームが起きています。よく韓国が整形大国といわれていますが、現在は日本の若年層の方が盛んではないかと思えるほど流行しています。しかし、ほとんど手術をしたことがないような人がメスを握っていて、大変なことになってしまうケースが少なからず発生しています。そういった状況も、美容クリニック業界のイメージを悪くしている問題点だと思っています。しっかりトレーニングを受けた皮膚科専門医と形成外科専門医がいて、その土台があって美容医療を提供すべきというのが私の信念ですね」
その一方、花房先生は「美容医療業界では、エビデンスの確かな治療だけが患者さんを救うわけではありません」とし、エビデンスを得る途上にある治療法の可能性についても着目。患者さんのために新たな治療法を常に模索していくことも大事だと訴えています。
なかなか表には出てこないような業界の問題点をズバズバと斬ってくださった花房火月先生。今後も、美容クリニック業界がより良い方向へと向かうように奮闘している花房先生への注目度は高まっていきそうです。