老舗食品製造企業の新ロゴができるまで。産学連携プロジェクト×埼玉工業大学の取り組み

2017/09/25
マガジンサミット編集部

先日、埼玉県深谷市で開かれた麺製造の老舗、株式会社「新吉」の創業100周年感謝の会にて新しい企業ロゴが発表されました。

 

※新ロゴマークが、埼玉工業大学の皆さんによってお披露目された。

 

ロゴマークを制作したのは、「新吉」と同じく深谷市にある埼玉工業大学の人間社会学部、情報社会学科の学生達。大学などの教育機関・研究機関と民間企業が、新技術の研究開発や新事業の創出を図ることを目的とした、いわゆる「産学連携」の一環としての取り組みです。埼玉工業大学でもさまざまな産学連携で成果をあげています。

 

 

このような取り組みにおいて、学生達は、授業で学んだ知識や技術を生かし、実践的な経験を積むことができ、なによりも、自分の考案したアイディアが実際に採用され市場に流通した時の感動は得難いものです。

 

※スーパーマーケットで見つけた新しいロゴ入りの商品。秋冬のラインナップから本格的に導入される。

 

果たして、どのような過程をへて新しいロゴは出来上がったのか? ロゴ制作を担った学生をはじめ企業経営が専門の林教授デザイン・CGが専門の檀上准教授にお話しを伺いました。

 

老舗製造企業のロゴができるまで

埼玉県深谷市で大正7年からうどん・蕎麦・中華麺などの麺を製造する「新吉」(しんよし)は、埼玉県では知らぬ人はいない有名企業。給食には「新吉」のソフト麺が採用されるなど県民にとって身近な存在です。また、深谷市には“煮ぼうとう”というご当地グルメがあり、「新吉」の“煮ぼうとう”は、長年愛されている地元のソールフードでもあります。

 

ロゴマーク制作を依頼した小内睦夫社長は、「深谷という土地で生活する埼玉工業大学の学生さんならば、愛情をもって取り組んでいただけるのではないかと思った」と、長年ふるさとの味を届けてきた老舗ならではの“地元への想い”を託す気持ちがあったそうです。

 

制作するのは「新吉」の新しいブランドロゴマーク。想いを託されたメンバーは、人間社会学部、情報社会学メディア文化専攻4年生の山口さんを筆頭に立候補した3年生(昨年11月の時点)3人。そこから学生4によるプロジェクトチームの約半年にわたる奮闘がスタートしました。

 

※左から、デザイン指導の檀上教授(メディアデザイン研究室)。佐藤さん。プロジェクトリーダーの栗原さん。田口さん。林教授(ビジネスモデル研究室)。

 

まずは質より量!大変だった生みの苦しみ

2016年11月頃から動きはじめたプロジェクトは、まず林先生が小内社長とディスカッションをし、社長や先代の社長の想いなどを反映した経営理念を制作。メンバー全員で共有したところで、小内社長から3つのキーワードを提示されたそうです。

 

「「おいしさ」「100年」「伝統」の3つのキーワードをヒントに、ラフを4人で描きはじめました。全部で120案くらい考え、小内社長と相談しながら7案に絞り込んでゆき、その7案をもとに、新吉さんの社員の方にアンケート調査をおこない、最終的に3案のデザインに絞り込みました。でも…そこからが大変で…」とチームリーダーの栗原さんは話します。

 

※ラフ案の一部。「なかなかデザインが浮かばなくて、がむしゃらに描きまくりました」と栗原さん。

 

「方向性は見えたのですが、具体的なカタチが見えるとイマジネーションが湧くのか、各方面から次々と色々な意見や提案をいただいて。それらの意見を全部とりいれると、だんだんと基のコンセプトとブレてきてしまって…試作してはボツになることの繰り返しでした」

 

 

「新吉(しんよし)は“しんきち”と誤読されてしまうことがあり、それを解決したかったのと、何を生業にしているのか一目見て分るロゴならば売上にも貢献できるのではないかと考えましたが……なかなか社長に納得いただけるデザインにたどりつかないし、新吉の社員さんにも認めてもらえないし。いいな!と思っても類似したロゴがすでに存在したりでした」

 

一方、田口さんは、比較的スムーズに作業が進んだと振り返ります。それでも最終案を調整するのに苦労したそうです。

 

「六角形の亀甲模様で長寿を表現しました。アンケート調査の時点でほぼカタチは決まっていましたが、そこから「創業1918年」の文字を入れることになり、デザインを崩さずにまとめるのが大変でした」

 

2人に共通する悩みは、自分が良かれと思ったデザインが採用されないこと。自分の価値観とクライアントの価値観や目線がまったく違うことに驚いたそうです。

 

※採用されることのなかった、栗原さん押しの作品。

 

「自分では(よくできたじゃん!)と思うデザインが、採用されないことに戸惑いました」「なぜ、コレだ!と思うデザインが選ばれないのか課題も残りました」と栗原さん、田口さん、それぞれが悩んだようです。

 

※採用されたロゴ

 

2人にとって、一つの商品(サービス)が生み出されるまでに、企業が取り組む仕事の多様さや難しさを経験するよい機会だったようですが、忘れてはならないのが、アイディアをプレゼンするために必要な“資料”。デザインをするだけが仕事ではありません。

 

「資料や備忘録などを制作するなかで、先輩から適切な表現などを教えてもらい、見やすく分りやすい資料作りの大変さを学ぶことができました」と、控えめに答える資料担当の佐藤さんでしたが、実社会では、この資料が上手くまとめられたか否かで結果が大きく変わります。提案書の時点でふるいにかけられ、競合他社に仕事を奪われることもあるからです。

 

主にデザインの指導をした檀上准教授は、「メールの書きかたなど、社会人に必要な基礎能力についての助言はしましたが、自ら考えて、責任をもって仕事を全うするためにも、ああしろ、こうしろ、などと詳細なアドバイスはしませんでした」と振り返り、「プロが行う作業と同じ工程を任せましたが、就職活動と並行しての作業にもかかわらず、よく頑張ってくれたと思います」と労いました。

 

「埼玉工業大学」だからこその地域貢献

プロジェクトを無事成功させた3人は、深谷市に貢献できたことが嬉しいと話し、栗原さんは「一緒に仕事をして、改めて新吉さんのうどんがこんなにも美味しいものだったのかと驚きました。袋を開けた時にうどんの良い香りがするんです。作りたてほやほやのニオイみたいな!(笑)他の商品とは違います!」と、これを機に、ロゴマークを通じて県外の方もPRできたらと抱負を語りました。

 

※新吉の“煮ぼうとう”はコシがあり、つるつるとした食感。醤油ベースでいただきます。

 

今回のプロジェクトを指導した林教授は、「「産学連携」による課題を通して、社会人になったときに実践で活かせる経験をしてもらいたい。フィールドワークによって、地域に貢献できたことは素晴らしいこと。第二の新吉さんなどの誕生にも期待します」と、今後も、「産学連携」プロジェクトの積極的な参加を試みたいとしています。

 

実践で役立つ経験と実績

大学4年生という忙しい時期に難しい課題に挑戦した3人ですが、「実績として残っているので、面接でお話しすると反応が全然ちがいますし、企業さんにアピールできます!」と就職活動を通し手応えを感じているようです。

 

小内社長は、「出来栄えにとても満足しています。今日の会(創業100周年感謝の会)で初めてご覧になった方からも好評です。良いご縁ができた」と、今後も機会があれば積極的に協力を求めたいと話しました。

 

※小内社長を交えて。

 

すでに社会人となって、かなりの時間を過ごした筆者ですが、今回のインタビューで感じたのは、学生達がロゴ制作において直面した悩みや課題は、未だ、筆者自身が仕事で悩むこと。考えたアイディアは、独りよがりでないか? 資料は見やすいか? 市場のニーズを掴んでいるか?など…3人のお話しを伺いながら、初心にかえるような気持ちになりました。

 

「産学連携」から生まれたプロジェクトを通し、実社会で必要とされるスキルやコミュニケーションを学ぶ。これは学生にとって大きなチャンス!ぜひ、貴重な体験を糧にこれからの活躍を期待しています。

 

取材にご協力をいただいた皆様、ありがとうございました。

 

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