新潟の魅力を発信しながら日本酒の伝統を守る

2023/05/12
マガジンサミット編集部

現在、日本には1000を越える酒蔵があるといわれ、それぞれが長年にわたって地域に根ざした酒造りを受け継いでいる。日本屈指の米どころである新潟県も日本酒の産地として有名で、長岡市の株式会社FARM8では、日本酒がポストに届くというサブスクリプションサービス「SAKEPOST」を展開。時代とマッチした取り組みがSNSで話題となり、酒造業界の新たなプラットフォームとして注目を集めている。

同サービスを手掛ける代表の樺沢敦氏に、SAKEPOST誕生の経緯やビジネスの拠点である新潟県への思いを聞いた。

子育て支援の観点から長岡をブランディング

2004年に発生した中越地震をきっかけに故郷である新潟県長岡市にUターンし、コンピューター関連の会社でエンジニアやマーケティングの仕事をしていたのですが、子供の誕生を機に地域に根づいた会社に転職しました。そこがNPOのような活動もしており、次第に地元企業や酒蔵などから相談を受けることが増えていきました。その中で、新潟の課題として地域をブランド化していく必要があるという思いが強くなり、独立を決意。2015年に株式会社FARM8を設立しました。

私がUターンした頃の長岡は、長岡花火だけがブランド化されている状態でした。食べるものにも困っていないし、おいしいお酒も飲める、働き口も豊富にあるから、わざわざブランディングをする必要がないという空気感だったのです。それが経済的に下降気味になった頃から地域の再生事業が活発に行われるように。ただ、私の印象では、コンクリート化やショッピングセンターの増加など、都市機能を充実させて東京に近づきたいという意図が感じられたので、これでは新潟や長岡の良さが伝わらないと思いました。

企業第一主義よりも、土と水を守りながら名産品である米でできたものをブランド化することが最優先であると考えたのです。東日本大震災の頃からその意識がさらに高まり、新潟の魅力をアピールする上でも良い効果を生み出すと思いました。新潟の人たちが、わざわざ東京を経由して他の地域のものを食べるぐらいなら、地元の魅力に気付いて名産品を食べたほうが経済的にも良いですよね。

酒蔵とつながって日本酒を楽しむSAKEPOST

当社で現在注力しているのが、日本酒のサブスクリプションサービス「SAKEPOST」です。別の日本酒商品として展開していた「ぽんしゅグリア」が若い人たちに好評で、「日本酒の飲み比べをしたい」というご意見から誕生しました。

日本酒をポストで届けるのは冒険でしたが、法律や運送面の課題も無事にクリアでき、送り手と受け手が時間を同期させる必要がない配送システムを確立できました。

「100ml×3パック」というサイズ感は、一見割高に感じられるかもしれません。しかし、「酒蔵を知る、出会える」というサービス内容を打ち出したことで、みなさんに受け入れていただけているように思います。日本酒が好きになっても、多くの人は小さな酒蔵の存在にまで気を配ることはありません。そこで、銘柄を隠して偶然の出会いを果たせば、酒蔵についてもっと知りたい気持ちも芽生えてくるのではと思ったのです。

SAKEPOSTには、パッケージ上のQRコードを使って酒蔵にダイレクトメッセージを送る機能が付属しています。毎日のように利用者の方々から酒蔵への熱い思いが送られてきて、予想以上の反応に我々も驚いています。この機能と同時に、SAKEPOSTで届いた日本酒の感想をSNSにアップしてくださったことも、認知度の向上に大きく寄与しました。

今後は提携する酒蔵の範囲を新潟県だけでなく全国に広げていく予定です。

自分で楽しむのはもちろん、お子さんから親御さんへのプレゼントとして毎月送りたいと言ってくださる方もいらっしゃいます。このような親孝行の形の一つとして使っていただけるのは想定外でしたが、たいへんうれしく思います。

競合を作らず、楽しみながら地域を活性化

今後の展開について、SAKEPOSTは海外展開が少しずつ始まっており、すでに香港やシンガポールのお客様に楽しんでもらっています。また、酒蔵と利用者がもっとコミュニケーションを図ることができる酒蔵ファンクラブのようなものを作って、SAKEPOSTと連動していきたいです。

食品についても酒粕を使ったジェラートやヨーグルトを開発していますが、もっと可能性を広げていく予定です。酒粕は健康面でも大きな効果がありますが、まだ論文も少ないので、それを実証するための学術的な取り組みにも力を入れたいです。

私が当社を運営する上で意識しているのが、競合を作らないこと。新商品を開発するときでも、誰かを蹴落とすことにならないかということを重視しています。勝ち負けがはっきり現れるようなビジネスは地域にとっても良くないので。我々は、楽しみながら経済が回るジョイフルエコノミーをモットーとし、その上でお客様が日本酒に対して興味を持つきっかけを作れたらと思っています。今後はSAKEPOSTで送られたメッセージが酒造りにフィードバックされることもあると思うので、メーカーとユーザーの垣根を超えた共創関係も築いていきたい。これが我々のビジネスに対する思いです。

30年後の新潟や長岡はどうなっているのか。自分が子どもの頃に見た景色や地域の資源も含めて、これから30年ぐらいは、当社のようなビジネスモデルが地域の未来につながると信じており、それが、私が仕事をする上でのモチベーションとなっています。

株式会社FARM8 代表取締役 樺沢敦(かばさわあつし)

1979年 新潟県長岡市生まれ。2002年 中京大学経営学部卒業 名古屋で就職後、中越地震を機に2005年に長岡に帰郷。エンベデッドシステム開発やマーケティングコンサルを経て、地域づくりや産業おこしのNPO活動を中心に事業開発を実施。2015年、地域資源活用をテーマとした株式会社FARM8を設立。地域資源活用とライフスタイルをつなげる様々な事業を展開。酒粕専門カフェスタンド Hacco to go!(赤坂・鎌倉・長岡)を3店舗立ち上げ、日本酒カクテルの素 ぽんしゅグリアを全国展開する。2019年より津南醸造株式会社 取締役就任。同年にSAVE OUR SAKEをテーマに掲げ株式会社FERMENT8を立ち上げ、取締役に就任。日本酒業界を次世代につなぐべく、新しい価値観での商品開発や海外展開を実施している。

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