【恐怖の絵本】発売から一週間で販売禁止となった昭和44年の絵本

2016/08/09
放送作家 石原ヒサトシ

 こうして長い間、カエルは、クモだんなと、その女房にこき使われていたが

ある日、突然

「なんでだ? なんで おらぁ クモのいうことを

へいこらきいているんだ?」

と、思ったら、全くそれは変だと気がついた。

そこでカエルは、しばらくは目ん玉をパチクリさせていたが

なにを考えたか、料理場の肉の中に潜り込み、じっと隠れていた。

 

 やがて日が暮れた。その日は雨だったから、

クモだんなは、雨で濡れた上に、腹を空かせて帰ってきた。

 

 いつものつもりで、

「おーい カエル、メシの支度はできているのか。」

と怒鳴った。……返事がない。

クモだんなは、カッとして、また怒鳴った。

「ばかもの、うすのろ、どこにいるんだ、返事をしろ! かえるう。」

……それでも返事がない。

 

 クモだんなは、わめきながら料理場へとびこんだ。

や、うまい具合に肉がある。だんなは肉をペロリと丸ごと飲み込んだ……。

 

 すると、おかしなところから声がした。

「へーい、クモだんなよ、おらはお前の思っているほどバカじゃない。

 バカでうすのろは、おまえさんさ。なんでそうガツガツと噛みもせず肉を飲み込むだね?」

 

 クモだんなは、あたりをきょろきょろ見回した。

「カエルめ出てこい! どこでぶつぶつ言っているんだ?

 いい気になると しょうちしないぞ!」

「おいらは、おまえさまの心臓の近くにいるだよ。」

カエルは丁寧に言った。

「心臓だって?」

「ああ、心臓のそばで座って、端っこのほうをくわえているだ。

おらの考えしだいでは、おまえさまを殺すことだって出来るというわけだ。

さあ、話がわかったら、おらの言うことを聞け、今からすぐ村へ行くんだ。」

 クモだんなは肩をいからした。

「雨が降っているんだよ、お前には見えないのか?

 外へ出かけるのは、いい日じゃないよ。

 さあ、カエルくん、僕の腹から出てくるんだ、お前のいるところじゃないよ。」

 

 クモだんながこう言ったか言わないうちに、カエルの歯は心臓に入り込んだ。クモだんなは悲鳴を上げた。

「わかった、わかったよ! すぐ出かけるよ。」

 

 そこで、クモだんなは、さっきより、もっとひどくなった雨の中へ飛び出した。もう、真っ暗で雷は鳴り出す、稲妻が光る、その中をクモだんなは走っていった。

 

「さあ、村だ。なにをしろというんだい?」

「戸を叩いて、中へ入るだ。そうして、男たちには、こんにちは奥様方、といえ。女たちには、こんにちは、旦那様方、というだよ。」

この記事が気に入ったらいいね!しよう

放送作家 石原ヒサトシ
この記事を書いた人

放送作家 石原ヒサトシ

放送作家 「クイズ雑学王」、「ボキャブラ天国」等 バラエティを中心にイロイロやってきました。なんか面白いことないかなぁ~と思いながら日々過ごしています。野球、阪神、競馬、ももクロ、チヌ釣り、家電、クイズ・雑学、料理、酒、神社・仏閣、オカルトなことがスキです。

放送作家 石原ヒサトシが書いた記事

あなたへのおすすめ

カテゴリー記事一覧

pagetop