ヒュー・ジャックマンが歴史の岐路に立った一人の政治家を熱演『フロントランナー』

2019/01/25
桂伸也

『X-MEN』『ウルヴァリン』シリーズでスター戦線に躍り出た後は『レ・ミゼラブル』、そしてミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』とその演技の多彩さを見せ、今や世界的な俳優として絶大な人気を誇るヒュー・ジャックマン。最新作『フロントランナー』で彼が演じた役柄は、1988年のアメリカ大統領選予選で最有力候補となりながら、スキャンダルによる失速を余儀なくされた政治家、ゲイリー・ハートだ。

1988年の大統領選といえば、共和党のジョージ・H・W・ブッシュが当選という結果となっているが、もし例えばこのハートが当選などという事態になっていれば、また違った未来となり、後のアメリカの歴史、そして世界の歴史もまた大きく変わったものになったかもしれない。それほどまでにハートの失速は、今歴史をたどればいろんな面で重要な意味を持ったものであるといえる。

「歴史の一ページ」に隠された本質、感性を刺激する物語の展開

ハートの失速は、単に歴史の一ページで語られる「一人の政治家の墜落」といったものだけではない。アメリカ政治史、マスコミ報道のターニングポイントとなったという大きな点を、この物語では描いている。ハートの登場以前に、スキャンダルを抱えた大統領はたくさんいたが、それはまだ「政治、政策と人柄や個人、プライベートは別物」という認識がまだ蔓延していた時期でもあった。

だが60年代に入り公民権運動などをはじめとした大きな社会的な変化、そしてその運動に触発され勃発した女性解放運動の影響による女性の性の解放などにより、政治および政治家に対する人々の認識は変わり始めた。また、70年代は政府が数々の隠ぺいを図ってきたといわれているベトナム戦争の影響で、国民の政治家に対する信頼度も低くなったといわれている。

その意味でこの時ハート、そして彼を取り巻く人たちに起きたこの事件は、政治、政治家に対するメディアやアメリカ国民の関心の中心、価値観を大きく変えたという見方もされている。この作品では、そんな歴史の一端にスポットを当てて描いており、その事実背景だけでなく、その場面の展開により人々の関心が変化する経過など、見る者のイマジネーションを強くかき立ててくれるものとなっている。

この時代に、この物語が発表される意義

この作品の原作は、ザ・ニューヨーク・タイムズ誌の政治部チーフで、現在はヤフーニュースにて米国政治に関するコラムを執筆しているジャーナリストのマット・バイが2014年に発表したノンフィクション『All the Truth Is Out: The Week Politics Went Tabloid』。

そしてこの映画では、このストーリーに対して大統領予備選の裏舞台を失脚までの数日間に絞り、この事件によってマスコミやアメリカ国民が、政治家に対する見方を変えていった様子を描いており、物語はハート自身だけでなく彼自身を取り巻く人たちの様々な人々の視点を交えた群像劇として構成している。

60年代から変化しはじめた女性に対する意識は、近年では「#MeToo運動」など、今でも社会的に強く関心を集めている。また現代はトランプ政権に代表されるようなエンターテインメント性を孕んでしまった政治のスタイルや、政治とメディアとの結びつきなど、メディアからの物事の見え方が大きな岐路に立っている印象もある。だからこそ今、この物語が世に飛び出ていくということには大きな意味があるとも考えられる。

80年代当初、選挙運動の裏側を緻密に構築、さらに物語を印象付けるジャックマンの表情

本作でジャックマンとがっちりとタッグを組んだのは、『サンキュー・スモーキング』『マイレージ、マイライフ』『JUNO/ジュノ』などを手掛けたジェイソン・ライトマン監督。

本作品に関しては、先述の重大なテーマがある中で、ハート本人をはじめ当時の選挙スタッフらとも対面するなど、徹底的なディテール作りを実施、さらに時代を反映した映像に合わせて、時にはボストンやティアーズ・フォー・フィアーズのロックナンバーが流れ、見るものを1980年代の舞台にいざなう。

一方で、徹底的な裏付け作りの上で見せるジャックマンの表情にも要注目だ。スキャンダルを発する前の、自信に満ちあふれた表情、そして事件後のあくまで自信を保ち続ける“強がった”表情、怒りの表情、家族に対する謝罪の表情、そして時にはある意味“下衆な”表情”と、多彩な顔を見せる彼の演技は、諸々に見える人々の感情をつなげ、ストーリーの本題を構築することにしっかりと貢献している。

緻密な裏付けと構成により描かれたこの作品は、きっと価値観の変化や政治の現場に立つ者の在り方など、見るものに対して新たな刺激を与え、様々な思いを生み出すきっかけとなってくれることだろう。

タイトル: フロントランナー

公開:2月1日(金)TOHO シネマズ 日比谷他全国公開

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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桂伸也
この記事を書いた人

桂伸也

フリーライター。元々音楽系からのスタートですが、現在は広く浅くという感じではありますが芸能全般、幅広く執筆を行っています。またエンタメ、芸能に限らずスポーツ、アミューズメント系と…何が得意なのかが不明な感じ。逆に困ったときに声を掛ければ、何らか答えが戻ってくるというか…ある意味“変な奴”(笑)

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