今回、ご紹介するのは、6月28日公開の映画『凪待ち』。色々と凄い今作ですが、一番の衝撃は主演の香取慎吾!! なんと今作での役どころは、人柄は良いけど自他共に認めるギャンブル依存症の男。香取節はそのままにクソ男を熱演。香取慎吾の好感度で感情移入できてしまうのはキャスティングの妙。もっと言うと体の大きい香取が右往左往するヤボったさもサスペンス要素に効果覿面なんです。
去年から今年にかけ、『サニー 32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』と社会派なストーリーを作品のテイストに合わせてエンタメに昇華してきた白石和彌が監督を担当。まさに演出とキャスティングがベストマッチ!!
その男、ギャンブル狂につき
香取の演じる郁男は、恋人の亜弓と彼女の連れ子である娘・美波と同居中。そこから心機一転、ギャンブルから足を洗い、亜弓の故郷である石巻に移り住むことに。所が石巻へ行ってみると、娘はヤンキー風の同級生の男子と再会し夜遊びデビュー。飲み屋では酔ったら女子供に手を出す系の亜弓の元旦那に絡まれる。家に帰れば、亜弓の年老いた父は末期癌にも関わらず漁へ出ちゃう始末。当の邦男も、石巻に競輪場は無いと安心していたら、どこにでもギャンブル依存者はいるものです。地元ヤクザ経営のノミ屋を紹介され、ついつい通いだしてしまいます。もう家庭は崩壊寸前な様相。
そんなタイミングで娘が帰ってこないとケンカになる郁夫と亜弓。娘を探しに車を降りた亜弓は、その晩に遺体となって発見されるのです。
リリー・フランキーの映画出演率、凄くないですか?
亜弓を演じるのは、最近は明るいながらも子供を思うお母さん役が増えてきた西田尚美。今作でも明るくしっかり者の女性を好演。それが彼女が不在になる後半の喪失感に効いています。
失意の一家の面倒を見る近所のおじさん=小野寺役に、演技の幅を広げ続けるイラストレーター(だったはずの)リリー・フランキー。
俺はどうしようもないロクデナシ!!
恋人が殺されたという犯人探しのミステリーもほどほどに、ノミ屋通いが会社で露見して、盗難の濡れ衣まで掛けられる邦男。自分のせいで母親が殺されたと思い悩む娘。一方、郁男も自分を責め続けます。「俺はどうしようもないロクデナシ」「俺がいると悪いことが舞い込んでくる」など、自らに言い聞かせるかのようなセリフの数々がいちいち胸に刺さります。
さらに、内縁関係でも(それ故)葬式の親族の席に座れない主人公。「川崎だって東京みたいなもんダベ」というアバウトな都会感を持つ村人。川崎では放射能いじりの虐めで不登校になった娘。至る所で、リアルで生々しいシーンが続出!!
ここまでの説明だと、ただただ重い映画と思うかもしれませんが、郁男の何段もの重ね技で見せる落ちてく様は一級のサスペンスにして、エンターテイメント!! 人が落ちていくだけでも映画はエンタメとして成立するのです!!
そんな中、事件に直面する前や競輪のレースシーンなど、スローモーションや無音を駆使して作られる不吉な雰囲気。緊張感をあおりまくります。さらに凄いのが、クライマックスでのサスペンスが一周して、追い詰められた人間は最高にユーモラスという演出には脱帽!!
残された3人の余韻を残す中、エンディングで流れるのは、津波で流された家財道具が沈む海底の映像。思わずグッと迫ってくるものがあります。
人生につまずきまくり、事件がキッカケで落ちぶれまくる男の喪失と再生をサスペンスМAXで描く映画『凪待ち』は6月28日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開となります。
映画『凪待ち』
出演:香取慎吾
恒松祐里 西田尚美 吉澤健 音尾琢真
リリー・フランキー
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
製作総指揮:木下直哉
プロデューサー:椎井友紀子 赤城聡
オフィシャルサイト:http://nagimachi.com/
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