1969年のアメリカ・NASAによる月面着陸の成功という歴史の出来事は、その大きな功績から今も様々な場面で語られている。そのニュースはドキュメンタリーを含め様々な文献や映像化がおこなわれているだけでなく、いわば挑戦への第一歩を表すアイコンの一つとして方々でも取り挙げられるなど、人類の歴史の中でも大きな出来事の一つとなっている。
そんな中また一つ、この歴史の瞬間を劇的に描いた映像作品が完成した。2019年2月8日(金)より全国公開される映画『ファースト・マン』だ。ただし、この映画はこれまで描かれてきた映像作品とは一線を画す作風で、見るものに衝撃を与えるものとなっている。
決してポジティブではないストーリー
『ファースト・マン』は、アメリカの歴史学者であるジェイムズ・R・ハンセン原作のノンフィクション作品『ファースト・マン ニール・アームストロングの人生』をもとに、1969年のアポロ11号による人類初の月面着陸という偉業を、成功のキーマンとなったニール・アームストロング船長の視点で追ったストーリー。
現在では世界的英雄として知られているアームストロングだが、本作では彼の人物像と合わせて、これまで語られることのなかった歴史的瞬間を深く描いている。
数々の苦難を乗り越え目標にたどり着いた「この瞬間」のことを、通常メディアの露出の多くではポジティブな面を前面に打ち出し描いている印象がある。ところがこの作品で描かれているエピソードは失敗、挫折、そして苦悩にまみれたものであり、偉業に至るまでのネガティブな面を浮き彫りにして、この事実をまた違った面で切り取った作品となっている。
夢や希望の裏側には辛辣な犠牲、試練の数々
物語の背景となった1960~70年という時期は、宇宙時代の幕開けとして未知の世界に向けての様々な夢物語が、あふれんばかりの希望とともに語られた時だった。その一方で、そんな話を荒唐無稽と批判した人も少なくなかった。
当時は箪笥の大きさ程もあったコンピューターが、近年では誰もが使いこなしている携帯電話の能力に勝てないほどの性能だったというくらいに、まだ技術もおぼつかない頃。宇宙時代に向けた計画は、新技術試験のために充てられたテストパイロットの死亡率が今では考えられないほどに高く、莫大な犠牲を払ってすら成功するかどうかの見込みも不確かなものばかり。
また旧ソ連との宇宙技術競争が激化する中で、公民権運動などをはじめとしたアメリカ社会の激動の流れは、夢を志した人々に対してまさしく大きな向かい風として吹き注いでいた。
そんな時代背景の中で展開するこの物語『ファースト・マン』。ストーリーは主人公・アームストロングの愛する娘が重病にかかり、妻とともに必死の看病をおこなうが、その努力もむなしく別れの時を迎え、絶望の淵に立たされるところからスタート、そしてNASAがおこなうジェミニ計画へ。
この作品では、明るい希望などみじんも感じられない苦悩と絶望感にまみれた彼の姿が、リアルな映像とともに丁寧に描かれており、単に作品が史事を辿ったものというだけでなく、“夢を叶えること”には、時には綺麗ごとでは済まない厳しさに立ち向かわなければいけない場合があるという、辛辣な事実が改めて叩きつけられるような感覚をおぼえることだろう。
チャゼル監督&ゴズリングのタッグをはじめとした強力なキャスト、スタッフ陣
本作のスタッフ、キャストとして特筆すべきは、なんといってもデイミアン・チャゼル監督と、主演を務めたライアン・ゴズリングのタッグ。第89回アカデミー賞授賞式で圧巻の6部門受賞を果たした映画『ラ・ラ・ランド』からの、再度の強力タッグと聞けば、否が応でも期待が高まる人も少なくないだろう。
そして物語のカギを握るアームストロングの素顔を見事に演じきったゴズリングに対し、実際のアームストロングに取材をおこなった原作者のハンセンは「ライアン以上にニールを演じられる俳優は、思いつかない」と賛辞を送っている。
また撮影には、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞を受賞した撮影監督のリヌス・サンドグレンが参加。編集、衣装、音楽にも同じく『ラ・ラ・ランド』のチームが再集結、共演には、映画『ミレニアム』シリーズ第四弾『蜘蛛の巣を払う女』などのクレア・フォイ、『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェイソン・クラーク、テレビドラマ『Friday Night Lights』のカイル・チャンドラーなど、豪華実力派俳優陣も多く名を連ねており、重厚な作品として仕上がっている。きっと玄人好みの映画ファンも思わず唸ることうけあいだ。
©Universal Pictures
『ファースト・マン』
公開日:2019年2月8日(金)
全国ロードショー
配給:東宝東和