コロナ5類移行後、さまざまな業種で客足が戻りつつあります。それに伴い深刻な問題となっているのがスタッフの人材不足。コロナ禍という経験を経て未だ人との接触をともなう仕事に不安感があり、エッセンシャルワーカーや販売、サービス系での人材不足の体感値が上ってきているといいます。
悩む現場を支えるひとつとして注目されているのが、ITによるシフト管理。人材サービスの大手パーソルグループの「パーソルイノベーション」によると、同社が提供するシフト支援ツール「Sync Up」は前年比300%と急成長しており、飲食店をはじめ、結婚式場、商業施設、試験監督、ホテル、コールセンターなど、採用先は多岐におよんでいるそうです。
この「Sync Up」は、複数の店舗間にわたるスタッフのシフトをひとつの画面で一括管理、共有することで、スタッフのスキマ時間を活かしやすくなるメリットがあり、人材が足りない時間帯を近隣店舗や事務所ではたらくスタッフに通知し、募集をかけて補充するといったことが可能です。
また、運営に複数社参加しているような大規模会場でのシフト管理にも適しており、試験会場やワクチン接種会場といった、従来、シフトが複雑で人材管理が難しかった場所でも採用されています。
出典)https://www.sync-up.jp/
資料)事業責任者である竹下 壮太郎氏によると2022年11月時点で導入企業数は550社、利用者数は7万ユーザーを突破している。同じグループ会社の「シェアフル」との相乗効果も期待している。
例えば、定期的に行われる「dodaの転職フェア」では、来場者の相談を受けるキャリアカウンセラーのシフトを、全国の開催地においてそのつど採用するのは難しく、カウンセラーに「Sync Up」のアプリに登録してもらうことで、複雑なシフトをスムーズに、ムリやムダなく組むことに成功しています。開発担当者によると、「Sync Up」を使うことでシフト制作にかける時間を平均75%削減できるそうで、これは4日間かかっていたものを1日で終わらせられる計算になります。
さらに「Sync Up」は、シフト作成におけるタイムパフォーマンスを向上させるだけでなく、売上に対する人件費率といったコスト管理にもその力を発揮します。
人口減少や少子高齢化による人材不足は人件費の高騰をまねき、経営者がそのコストにシビアにならざるをえない昨今、採用依存体質から脱却し、今いる従業員をいかに活かして生産性を高めていくか、今後は、将来的な人件費を予想し、経営におけるコストバランスの最適化を目指す必要があります。
店長やマネージャーといった管理職が、個々に提出されたシフト希望表を眺めながら事務所の片隅でうんうんと頭を抱えながら毎月のシフトを組む姿は、今は昔。店側にとっては、シフト管理がスムーズになっただけでなく、事前に売上の目標や客数の目標を登録することで「人時売上高」「人時客数」「人件費率」を自動で集計し、予定人件費の最適化が可能となるのです。
全社員が応募可能な新規事業プログラム「Drit」
派遣事業の「テンプスタップ」、転職支援の「doda」、そして過去には求人媒体の「an」など求職採用におけるマッチングサービスが主力だったパーソルグループ。しかし、労働人口が縮小していくなか、今までのようビジネスモデルだけでなく、時代の変化にあわせた新しい発想やアイディアによる新規事業の創造が必要と考えています。
そのような新しいアイディアを生みだす取り組みのひとつが、パーソルイノベーションが新規事業支援として実地する新規事業開発プログラム「Drit(ドリット)」。社内ベンチャーを育てる目的で設立された社内コンペであり、前出の「Sync Up」をはじめ「ミイダス」や「lotsful」、「コミックラーニング」などの錚々たるプロジェクトが「Drit」から巣立っており、なかには売上3桁億が見えてきている事業までに成長したものもあるそうです。
審査を通過するのは狭き門。6万人におよぶパーソルグループ全社員の誰もが応募でき、何万というアイディアのなかを勝ち抜くためには生半可な気持ちで挑戦できません。もちろん、ハードルが高いぶん、Dirt事務局が勉強会やブレストの場を設ける、必要とあればグループ内の人材や外部アドバイザーの紹介、先輩社員や成功者との交流会などの場も用意するなどのサポートも充実しており、人材交流にも一役買っています。
また、新規事業のスタートアップの際には、サービスを利用した手応えを顧客からダイレクトに教えてもらえるなど、顧客接点における支援がしっかりしており、社内にも検証に対する協力体制がある点などは、人材サービス会社ならではのメリットです。
成功だけが財産ではない。事業をたたむ経験も評価
この「Drit」には、日々の業務のなかで気が付いた課題などを解決するために「失敗をおそれずチャレンジしたい」というパーソルグループの社風が息づいています。コンペを通過して晴れて事業をたちあげたものの途中で挫折する事例は多く、グループ内にはその“しくじり経験”も大切な財産という考えが広く根付いるのです。
実はプロジェクトは立ち上げよりもクローズするときの方が難しく、過去には、残念ながら軌道に乗れず撤退したプロジェクトに対し、パーソルイノベーションの3つのバリュー「ふつうを疑う」「速さを武器に」「それは最後の答えか」を体現したチャレンジだったという点が評価され、『PERSOL Group Awards』が授与されたという伝説的な事業も存在します。現在、その担当者は撤退時の経験を活かし、調査設計や実査などのサポートを通じて、立ち上げたサービス以外のサービスに積極的に関わっているそうです。
パーソルHD執行役員でパーソルイノベーションの前社長であった「パーソルデジタルベンチャーズ」の長井利仁社長は、「目的は社員が自ら考えて事業化を目指し、たとえ成功しても失敗しても、ゼロからイチをつくりあげた経験を大事にし、チャレンジした社員を称賛していけるような雰囲気を醸成したい」と話しており、挫折経験をふくめ社内で蓄積した新規事業立ち上げのノウハウを活かし、日本における“イノベーション体質人材”の輩出に貢献することを目指しています。
ただ、人がはたらけばいいとは思っていない。より生産的にはたらくにはどうしたらいいのか、はたらく先での課題を解決できる会社でありたい。そんな、自らが人材を尊重し、イノベーティブな組織であろうとする心意気が込められているのです。