「歯科から全身の健康を取り戻す」 歯科から全身の不調に向き合い、健康寿命を延ばす

2024/12/27
マガジンサミット編集部

神戸市東灘区にある吉川歯科医院には、地元の人々はもちろん、評判を聞きつけて遠方からも多くの患者が訪れる。同院の診療項目は、むし歯治療から審美治療、インプラントなど多岐に渡っている。中でも力を入れているのが、歯科金属アレルギーや病巣感染など、口腔内のトラブルを原因とした体の不調に向き合うことだ。「歯科から全身の健康を取り戻そう」を基本理念とする吉川涼一先生にお話をうかがった。

学びへの好奇心で新たな治療法を積極的に取り入れる

吉川先生は関東の歯科大学を卒業後、神戸大学附属病院歯科口腔外科と開業歯科医院勤務医を経て、地元・神戸に吉川歯科医院を開設した。実は、もともと歯科医を目指していたわけではなく、「最初はアナウンサーになりたかったんです」と話す。当時のアナウンサーは発音や滑舌が大切だったが、自身のかみ合わせが気になり、その道を断念。ちょうどその頃、知り合いから「医科はどうだ?」と誘われて、歯科の道を目指すこととなった。ちなみにこのとき、アナウンサーを目指していたマインドは、後に講演会で話すときなどに大いに役に立つこととなった。

今年で開業46年目だという同院。「最初の10年は、いわゆる普通の歯医者をやっていました。でも、ずっと同じ事をやっていると、新しいことを学びたくなってしまって」と笑う吉川先生。持ち前の好奇心が新たな学びにつながり、平成元年から、当時まだ珍しかったインプラント治療をはじめた。

平成7年には、未曾有の大災害・阪神淡路大震災が起こり、医院がある東灘区も大きなダメージを受けた。「近隣の家もすべてつぶれてしまって。みんないなくなってしまいました。近所から人を呼ぶことができないなら、遠方から呼ぶしかないと考えたんです」。そこで、当時まだ世間に浸透していなかった審美歯科をはじめた。すると、その評判を聞きつけて遠方から患者が訪れるとともに、不思議なことが起こり始めたのだ。

震災をきっかけにはじめた審美歯科

審美歯科というのは文字通り、口もとや歯の美しさに焦点を当てた歯科治療だ。「審美歯科の中に、見た目が良くない金属の詰め物をセラミックに変える“メタルフリー”という治療があるのですが、それを受けた患者さんに変化が現れたんです」と吉川先生。患者の中に「湿疹が治った」や「慢性疲労が軽減された」という人が出てきたのだ。これは、金属素材を取り除くことで、金属アレルギーの症状が改善されたものと考えられる。

「そういう話は聞いたことがありましたが、口腔外科や皮膚科の分野だと思っていました。ただ、目の前で実際に起こっているのを見ると『やらなきゃ』という気持ちになりました。続けていくうちに『金属アレルギー』のほか『慢性病巣』と『かみ合わせ』の3つが、大きな原因になっていることがわかったんです」と吉川先生は語る。口の中やノドの奥にある慢性病巣は、いままであまり注目されることはなかった。

「恐ろしいことに、むし歯と違って慢性病巣には自覚症状がないんです」。自覚症状がないまま、細菌が血流にのって全身へ回り、病巣から離れた臓器などに異常が起こるのだという。このことを病巣感染という。「この概念は古くは紀元前、ヒポクラテスの時代からありました。ただ明確なエビデンスが示されていないとして、否定されることも多いのが現状です」。原因不明の症状に苦しむ患者のためにも、この治療法を広めたいと考え、歯科治療から全身の健康を取り戻すという取り組みが始まった。

患者自身から情報にアクセスを

自ら治療を続ける中、「適切な医療を受けるために、患者自身が情報にアクセスしやすくしたい」と、自著の出版や講演活動にも力を入れた。最近では、著書やインターネットの情報を見て、コンタクトを取ってくる患者も多いのだという。「まずは患者の言うことを否定しないこと。それが一番大切です」と話す吉川先生。中にはよその医院で話を聞いてもらえず、話すことに消極的な患者もいるのだ。患者に向き合い、しっかりと話を聞くうちに、ポツポツとつらい症状などを話し出す。初回のカウンセリングは、約1時間「大抵1時間ではすみませんよ」と笑う。

口の中から健康を守るには、予防歯科の考えも大切だ。吉川先生は、東灘区歯科医師会理事、常務理事、副会長を歴任し、兵庫歯科衛生士学院副学院長・学科長として、歯科衛生士の育成にも力を入れてきた。「まずは予防が大切です。そして患者さんに、どこの病院に行ってもなかなか治らない病気や症状は『歯科金属アレルギー』や『慢性病巣』、『咬み合わせ』が原因である可能性があることを知って欲しい」と話す。

現在73歳、実際に手を動かして治療ができる期間は、本人いわく「あと5年ほど」。そのため、歯科と医科の関係が良好な歯科大学を中心にこの治療法を広め、若い人材に継承して欲しいと語る。「医科と歯科がうまく連携できる未来を作れたら」と吉川先生。日本人の健康寿命を延ばすため、現在も歯科からできることを追求している。

この記事が気に入ったらいいね!しよう

マガジンサミット編集部
この記事を書いた人

マガジンサミット編集部

編集部のTwitterアカウントはこちら 【マガサミ編集部Twitter】 編集部のYoutubeアカウントはこちら 【マガサミYoutube】

マガジンサミット編集部が書いた記事

あなたへのおすすめ

カテゴリー記事一覧

pagetop