蕎麦専門誌の編集者に聞く、大晦日までに知っておきたい【こだわりのそば】

2016/12/29
マガジンサミット編集部

「商売よりも自身のこだわりを重視しているわけですが、そこに熱狂的なリピーターがつくので、小規模ながら商売が成り立っているのです。最寄り駅からも遠い、武蔵小山の住宅街にある『紫仙庵』というお店なんて、日本全国からお客さんが訪れるんですよ。そんなところが面白くて、特集企画として取り上げてみました。味の好みは人それぞれですが、住宅街にあるような隠れ家的な蕎麦店では、個性的な蕎麦を食べさせてくれることは間違いないでしょう」

 

手打蕎麦処 紫仙庵 http://www.shisenan.com/

 

― 手打ち蕎麦に流行りのようなものはあるのですか?

 

「肉や寿司など、最近は熟成ブームですが、実は蕎麦も熟成したものを売りにしている店があります。熟成させることによって、蕎麦の持つ風味や甘みが増すのだそうです。新蕎麦や挽きたて・打ちたて・茹でたての三たてがありがたがられる蕎麦にあって、熟成蕎麦は異色の存在です」

 

 

「熟成蕎麦には打った蕎麦を何日間か寝かせたものと、玄蕎麦(蕎麦の実の状態)を熟成させたものの2パターンがあります。前者でいえば、吉祥寺の『中清』が有名です。同店の熟成蕎麦は色が黒く、ナッツのような味わいで、つゆではなく塩でいただきます。一方、後者では何といっても神田の『眠庵』。なかなか予約が取れないほどの人気です。大正時代に建てられた民家をリノベーションした店舗も個性的でいい感じです」

 

眠庵 http://www.nemurian.net/

 

― では、逆に王道の蕎麦屋さんとはどのようなものでしょうか?

 

「まず、江戸時代から続く『砂場』『藪』『更科』の御三家は押さえておくべきでしょうね。また、一大勢力なのが『一茶庵』です。大正時代に、蕎聖と呼ばれた片倉康雄氏が足利市で興した老舗ですが、蕎麦打ち教室も主宰していて、多くの蕎麦店主がここから巣立っています。弊誌で取材したお蕎麦屋さんの中には、毎号必ず一茶庵の蕎麦打ち教室の出身者がいらっしゃるほどです。

 

名代 虎ノ門 大坂屋 砂場 本店   http://www.kibati-kai.net/02kamei/kameiten/toranomon_sunaba/index.html

かんだやぶそば          http://www.yabusoba.net/

総本家 更級堀井         http://www.sarashina-horii.com/

 

― カリスマと呼ばれるような蕎麦打ち職人もいらっしゃるそうですね。

 

『翁達磨』高橋邦弘さんですね。『蕎麦打ちの神様』と称される方で、高橋さんの蕎麦打ちに影響を受けて蕎麦屋を志す人もいるほど。高橋さんの店を訪ねるクルマで道路が渋滞して、警察が出動したなんていう逸話もあります。まさにカリスマと言える存在です。弊誌でも高橋さんにインタビューしたことがあるのですが、このクラスのカリスマともなると話される内容も哲学的で、ニワカの私には理解できない部分もありましたね(笑)。高橋さんは現在、大分県に移住しており、来年あたり本格的な活動を始められるのではないでしょうか」

 

一茶庵本店   http://www.issa-an.co.jp/

翁達磨     http://okina-daruma.com/daruma_group

 

 

グルメサイトと差別化を図るには

― 『蕎麦春秋』さんは美人女将のいる蕎麦屋さんを特集されたりするなど、ちょっと変化球な企画も面白いですね。

 

「正直言って、苦肉の策です(笑)。単なる店の紹介記事を掲載するだけでは、食べログなどのグルメサイトと大差ないということになってしまいがち。なので、どうすれば差別化を図ることができるのか、いつも頭を悩ませています」

 

― どのように差別化を図っているのですか?

 

「一つは店を紹介するにしても、特定の切り口やテーマに沿って紹介するということ。前述の美人女将の特集も、女将にスポットを当てれば単なる店の紹介ではない内容になります。もっとも、手打ち蕎麦好きの方は真面目な方が多いので、「不純だ」なんて声もありましたが(笑)。この手の企画は実際に美人が登場しなくて企画倒れに終わることも多いのですが、このときはみなさん、キレイな方ばかりで誌面も華やかになったし、個人的には気に入っている企画です」

 

 

― 確かに美人女将と旨そうな蕎麦の写真が掲載されていて、男性読者には好評だったのではないでしょうか。

 

「もう一つ差別化という点で言うならば、雑誌はお店に取材をしているということです。グルメサイトはユーザーの感想が掲載されていますが、取材はしていません。もちろん旨い不味いというユーザーの本音が掲載されているだけに参考になるし、雑誌にはない有用性があります。だったら、我々は読者がその店に行きたくなったり、その店を選ぶために参考になったりするような客観的な情報やデータを盛り込んでいこうと考えています。蕎麦粉の産地や蕎麦粉とつなぎの比率、店主がどこの店で修業したかといったバックグラウンド、こうした情報があれば、蕎麦好きならある程度どのような店でどんな味の蕎麦なのか、ということが想像できるでしょう。まあ、自分の舌に絶対の自信があるわけでもないし(笑)。味のことは、そんなに安易に書けません。実際、そばの雑誌をつくっていますが、蕎麦通でもなんでもないんですよ」

 

― そういえば、高速道路のサービスエリアのお蕎麦屋さんも特集されていましたね。

 

 

「高速道路グルメは充実の一途を辿っており、さまざまなメディアで取り上げられています。それは蕎麦も同様で、蕎麦どころのサービスエリアでは、本格的な手打ち蕎麦が食べられたりします。サービスエリアの蕎麦店を特集した企画は、他誌やグルメサイトにはないのでは。蕎麦業界にとどまらず、世の中の動きとリンクした企画を常に考えていきたいですね。まあ、いろいろな切り口を探して、読者に受けるような金脈を探している、というのが実際のところですが(笑)」

 

― サービスエリアの蕎麦目当ての旅行を計画するのも楽しそうですね!これからも、グルメサイトにはないような、『蕎麦春秋』ならではの斬新な切り口の企画楽しみにしております。本日は、ありがとうございました。

 

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