雑誌は全部ウエブメディアになってしまうんですか?『ケトル』嶋浩一郎氏インタビュー

2016/04/15
マガジンサミット編集部
「ウエブメディアのマネタイズ手法はアフィリエイトから課金まで様々ありますが、多くのメディアはPVを換金する手法に頼っているのが実情。ですから、PVを稼ぐ一本一本の記事が重要視され、ヤフーやグノシーなどのプラットフォームにスライスした記事を出張させるようになる」

 

「少数の事例ですがパッケージに課金する『日経電子版』みたいな媒体もある。課金が成功しているのはとてもレアなケースです。これは、紙の雑誌のマネタイズに近いですよね。パッケージメディアは一つの固まりとして情報を見せていくわけですから、そこに世界観があって、どんな情報を選ぶかというプロセスに編集の視点が色濃く反映されるわけです」

 

「ところがウエブでは、情報がスライスされているから、読者は記事を一本しか読まない。どの媒体がその記事を書いたか、そのバックグラウンドを知らないと、世界観はまったく伝わらない。そういった意味では、『北欧、暮しの道具店』はウエブにおいて、雑誌的な情報との偶然の出会いができる編集にトライしていますよね。がんばってほしいなあ。」

 

『北欧、暮しの道具店』

http://hokuohkurashi.com

雑誌とWEB、それぞれの編集方法

「今まで紙とウエブのマネタイズや世界観形成の話をしてきましたが、紙とウエブは編集のお作法も、もちろんちがいますよね。例えば、週刊誌の人気記事をそのままウエブにもってきても、意外にPV数を獲得できないこともあったりするんです。読んでもらうには、ウエブにはウエブ編集の“お作法”があるわけです。『週刊ポスト』などは、ウエブマガジン用にテキストを毎回丁寧にリライトしていますよね」

 

「あと、紙とウエブでいえばジェネレーションの問題もあるでしょうね。やはり長年慣れ親しんだフォーマットで情報を読みたいってことはあります。だからデジタルネイティブの人にとっては紙で新聞や雑誌を読むなんてそれこそ想定外」

 

「また、デバイスの問題だって絡んでくる。キンドルは“反射式”だから※印刷物にちかい状態。アイパッドは、内から光が出てくるから“内照式”です。“反射式”の方が文字の認識が高いという実験結果があります。だから誤植とかはプリントアウトしたほうが見つけやすいわけですね。そういうデバイスや社会環境の変化もふまえて編集者は情報の編集をしてゆかなければなりませんね。」

※キンドルの一部機種は、電子インクを使用しているので外光を当てないと読めない仕組みになっている。

欲望を発見するのがうまい、雑誌編集者たち

「雑誌の得意技をあげてみると「実はこういうこと、したかった!」という“欲望の暗黙知を言語化”するのが上手いんだと思います。つまり新しい文化やライフスタイルを発見して育てるといってもいいかな」

 

「例えば“〇〇女子”(GLOW・宝島社)とか“美魔女”や“公園デビュー”(VERY・光文社)とかね。もちろん、ウエブからも様々なカルチャーが誕生するんですが、メディアの編集者の経験とスキルでいうと、そういうことに関して雑誌編集者に一日の長がある」

 

「何がしたいか分っていることを検索できても、新しく何かしたいことをウエブで探すのは難しいでしょ。雑誌の編集者は読者のちょっと先の欲望を見抜くのが得意。よく「半歩先」とか彼らはいうでしょ」

 

「そういった欲望の暗黙知を提言する上手さや能力は、編集者の移籍等でこれからウエブにも広がっていくでしょうね」

 

「彼らのように、半歩先の欲望や新しいアイディアを思いついたりするためには、読者も、欲しい情報をだけを手にいれるのではなく、自分にとって無駄かも知れない“その他”の情報が大切だと思うのです。そういう意味においても雑誌は相当いいメディアだと思いますよ。」

10代~20代に、どう雑誌の面白さを伝えるか

「しかし、残念なことに今の日本人は無駄を嫌う傾向にあります。その情報が、今、役にたつかどうかで、価値が決まってしまう。例えば「この曲、使えるよね!」みたいな言い方をする。宣伝する側も泣ける・泣けないみたいな“用途”で映画の広告とかつくっちゃうから良くないけど、好き=役立つこと。なのはちょっとおかしい」


「雑誌を手に取ったことがない若い世代には、社会やビジネスの場でのエデュケーションしかないのかなあ?無駄な情報から多くのアイディアが生まれることを学校で教えてあげるとか。無駄な情報から何かを発見する力、自分の視野にはなかったものを取り込む楽しさを知ってほしい」

 

「今のところ雑誌は、一番、想定外の情報に遭遇しやすいメディアで、もし、テクノロジーの進化によってデジタル上で同じ体験ができれば、その時は雑誌でなくてもいいと思います。情報提供のテクノロジーの進化と同時に、新しいマネタイズ手法の開発も必要になりますけどね。」

 

 

嶋 浩一郎(しま こういちろう)

1968年生まれ。1993年博報堂入社後、コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。2002年から2004年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。2006年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。2011年に雑誌『ケトル』創刊。

主な著書に『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』など。

 

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